第6回 貸借対照表-借入金の急激な変動に注意


前回は、換金できない資産についてご説明しました。

今回は、貸借対照表の負債、特に借入金に注目してみることにします。

借入金とは文字通り会社の借金のことです。
通常は銀行から借り入れますが、親会社から借りることもありますし、オーナー色の強い会社ですとオーナー一族から借りる、ということもあります。

また、合わせて見ておきたいのが社債です。借入金の場合は、銀行から借り、同じ銀行に返すわけです。
社債の場合は、社債という債券を発行してお金を借り、返すときはその社債を持っている人に返す、という仕組みです。
社債を持っている人は、別の人に社債を売ることもできるので、貸したお金を早期に回収できるメリットがあります。
このため、最初に社債を持っていた人と、返すときに社債を持っている人は違うことがあります。

借入金であれ社債であれ、お金を借りる状況というのは、要するにお金が必要になったからです。
お金が必要な状況というのは、資産を買うとか、別の負債、例えば支払手形や買掛金を支払うとか、もしくは何かの費用を賄うような状況でしょう。

実は、貸借対照表というのは、資産と負債純資産の合計が常に一致するような仕組みになっています。
それで「対照表」と呼ばれるのです。
この仕組みから、借入金=負債が増えるとき、
1. 資産を買えば資産が増えます。
2. 別の負債を支払えば、借入金が増える代わりに別の負債が減ります。
3. 費用が増えると利益が減ります。利益の蓄積は純資産になるので、純資産が減ることになります。
このように、借入金が増えると、その影響がどこかに出るようになっています。

図は、倒産してしまったとある不動産会社の最後のx1年、x2年の2年間の貸借対照表を並べたものです。

借入金に注目してみましょう。
まず、短期借入金がx2年に異常に増えています(図の*1)。
短期借入金だけでなく、新株予約権付社債や長期借入金も増えています(図の*1)。
x2年には相当の借金を増やしたことが分かります。
他の負債は劇的に減っているものはありません。
したがって、この借金は別の負債を返済するためではなく、何か資産を買ったのか、あるいはよほど大きな費用の支出があったか、ということでしょう。

そこで資産を見てみると、他の資産は対して変わっていないものの、棚卸資産だけが異常に増えています(図の*2)。
多額の借金をして、在庫を増やした、ということになります。
この会社は不動産会社なので、在庫、つまり販売目的の不動産の手持ちが増えたことを示しています。

次の事業展開に向けて在庫の積み増し、というのはよくあることです。
そのために資金が必要な場合もあります。
しかし、その積み増した在庫が売れないと、在庫が増え、借金も増えてしまうという状況に陥ります。
これが、図が示している状況です。

最後に、本題から外れますが純資産にも注目しましょう。
利益剰余金が増えています(図の*3)。
つまり、この会社の利益が増えているので、黒字だったことが分かります。
黒字なのに倒産してしまう、黒字倒産の典型と言えるでしょう。

今回のように、前の年と比較して借入金などが異常に増えたり減ったりしているときは、その影響が他のどの部分に出ているのかを見ることが重要です。

第7回 キャッシュ・フロー-ここに注目に続く