第9回 一株当たりで考える


前回は、キャッシュ・フローと投資の関係についてご紹介しました。

今回はキャッシュ・フローを離れて、一株当たり利益と、一株当たり純資産についてご説明します。
損益計算書には、一株当たり利益、貸借対照表には一株当たり純資産がそれぞれ注記されています。
上場会社では、財務ハイライトに書かれていることもあります。
どうしても見つからない時は、会社の発行済株式総数が分かれば、損益計算書の末尾の当期純利益と、貸借対照表の純資産をそれぞれ株式総数で割って求めてもよいでしょう。
(厳密には計算方法がきちんと決まっていて、幾つかの要素を含めて計算しなければならないので、あくまで簡便的な方法です)

上場会社ともなりますと、規模も大きいので、純利益や純資産の額も何億円、何十億円となり、今ひとつピンときません。
このとき、一株当たり利益や一株当たり純資産が役に立ちます。

上場会社であれば、一株幾ら、といった株価があるわけですから、それと比較すれば、自分の持っている、またはこれから買おうと思っている会社がどの程度の儲けか、価値がどのくらいか、を知ることができます。

会社に投資するからには、配当などの何らかのリターンを期待するわけですが、その原資は主に利益となるわけです。
一株当たり利益から、だいたい幾らくらいの配当ができるものなのか、予想することができます。

一方、純資産は会社の資産から負債を引いた残りです。
極端なことを言うと、会社を仮に今日畳むとして、資産を全部売り払い、負債を全部返したら、幾ら手許に残るか、ということです。
すなわち、会社の価値を示していることになります。
一株当たり純資産は、そういう意味で、会社の一株当たりの価値を表しています。
これがなぜ、会社の取引価値である株価と同じではないのか、というと、株価には将来の会社の成長とか、配当の可能性といった要素が織り込まれるからです。

今、何かと話題の、オリンパスの一株当たり利益と一株当たり純資産、株価を例にとって見てみましょう。
2011年11月29日の終値は、1,003円でした。一時は5百数十円まで下がりましたから、随分持ち直したものです。

一方、オリンパスのwebサイトの決算短信によりますと、平成23年3月期の一株当たり利益は、27.47円、一株当たり純資産は、613.39円となっています。
例の一連の騒ぎにより、決算数値は修正される可能性がありますが、一応これを元にみてみましょう。
株価は1,003円ですから、一株当たり純資産を上回っています。つまり、貸借対照表に書かれた以上の価値が期待されていることを今の株価が示しています。他方、一時は5百数十円まで下がったことを思い起こすと、その当時は会社の価値は貸借対照表に書かれているよりも低いと考えられていたことが分かります。
不正会計の全貌が見えなかったので、もしかしたら貸借対照表の純資産に食い込むような損失が隠れているかもしれない、そんな心理が株価に影響したと言えるでしょう。

そのような疑惑の一方、直近の業績としては、後の決算修正の影響は別として、一株当たり利益は27円でした。
株価1,003円で買い、利益が27円とすると、利益率は2.7%と言えます。この全てが配当になるわけではありませんが、一つの尺度とはなるでしょう。

第10回 財務以外の情報-有価証券報告書を見ように続く