前回は、黒字倒産を招きがちなキャッシュ・フローの落とし穴についてご説明しました。
今回は、投資とキャッシュ・フローの関係についてみてみましょう。
2011年11月21日、JR東海は中央新幹線、通称リニア中央新幹線の中間駅の建設費は全て自社負担とすることを発表しました。
いよいよ21世紀の乗り物、夢のリニアモーターカー建設に向けて動き出すことになります。
筆者が子供の頃、図鑑や絵本などで、未来の乗り物として紹介されていたリニアモーターカーに心躍らせていたものです。
さて、大人になりますとそういう夢物語だけでなく、会社、お金、といった現実と向き合わなければなりません。
今回のリニア新幹線建設には、5兆を超える建設費がかかると言われています。
加えて今回、中間駅の建設費負担も表明したので、建設費は更に増えることになるでしょう。
一体、そんな建設費をまかなえるものなのでしょうか。
このようなとき、キャッシュ・フロー計算書が役に立ちます。
一般に、設備投資は営業キャッシュ・フローの範囲内に収めるのが健全な経営、と言われています。
これは極めて単純な計算から成り立っています。
第2回で見たように、キャッシュ・フローは営業、投資、財務、の3つで成り立っています。
したがって、投資キャッシュ・フロー<営業キャッシュ・フローであれば、残りの財務キャッシュ・フローを除けば、キャッシュ・フロー合計は常にプラスになります。
言い換えれば、投資キャッシュ・フロー<営業キャッシュ・フローであれば、余計な借金をしないで済む、ということになるわけです。
反対に、投資キャッシュ・フロー>営業キャッシュ・フローになってしまうとキャッシュ・フローはマイナスになってしまいますので、自己資金を取り崩すか、あるいは借金をしなければなりません。
図は、平成23年度のJR東海(東海旅客鉄道株式会社)のキャッシュ・フロー計算書、それからJR東海が発表しているリニア新幹線の事業計画書に基づくキャッシュ・フロー計算書を記したものです。
これによると、平成23年度は営業キャッシュ・フローが十分にあり、投資も営業キャッシュ・フローの範囲でまかなわれていることが分かります。
一方、リニア新幹線が開業するまでの年平均を見てみますと、営業キャッシュ・フローは3800億円と現在よりも控えめの見積もりながら、毎年2900億円(17年間で約5兆円)の投資キャッシュ・フローが必要なことが分かります。
東海道新幹線や在来線にも引き続き投資は行っていかなければなりませんから、そうした投資の毎年1900億円を加えると、毎年1000億円キャッシュが足りなくなります。
そこで、財務キャッシュ・フローに書かれている通り、おそらくは借金によって毎年1000億円のキャッシュをまかなうことが計画されています。
年平均1000億円ですが、開業まで17年、この計算から借入総額は1兆7千億円にも上る計算です。
もちろん、その借入は後の営業収入で返さなければなりません。
夢の実現にはお金が掛かるということですね。
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