Category Archives: キャッシュフロー

第14回 エルピーダメモリの継続企業の前提とは


前回は、法人税減税と、繰延税金資産との関係をご紹介しました。

今回は、新聞でも目にする「継続企業の前提」とは一体何かをご説明します。

2012年2月14日、エルピーダメモリは平成24年3月期第3四半期決算において、継続企業の前提に重要な疑義が生じているとの発表を行いました。

さて、この「継続企業の前提」とは、一体何でしょうか。

一般に、会社はずっと続くことを前提に事業を営んでいます。「そんなこと当たり前だろう」と言われればその通りですが、会計の世界ではより重要な話となります。

例えば、多くの会社は品物を売るときにいちいち現金で代金を受け取りません。月末に締めて請求書を送り、翌月末に振り込んでもらう、といった形ではないでしょうか。

これを「掛売り」といい、品物をお客様に渡した段階で売上を立てます。実際に代金を受け取るときは、掛け代金(売掛金)の回収、として処理します。

それが可能なのは、今月末も来月末もおそらく会社は健在で、請求書も発行するし代金も回収するだろうとの前提に立っているからです。

もし、今月で会社がなくなってしまうとすると、請求書も発行されませんし、代金を来月回収しようにも、おそらく銀行口座もないでしょう。したがって、会社がなくなる前提では、代金の回収されない売上を計上してよいのか、という話になってしまいます。

また、会社は工場を建てたり機械を買いますが、そのコストはその時の費用にするのではなく、将来何年にも渡って減価償却します。

これも、その減価償却の期間中、会社が継続することが前提になっています。

もし会社がすぐになくなってしまうなら、将来に渡って減価償却する意味はなく、その工場や機械は幾らで転売でき、幾らを債権者や株主に返せるか、という話になってしまいます。

このように、会計の多くは、会社が継続して成り立っていることが前提で処理を行っているので、継続して成り立たないとなると、会計そのものが否定されてしまうのです。

そこで、会社は継続して成り立つかどうかを決算(半期や四半期も含む)のたびに検証することになっています。

成り立たないとなると大変ですが、そこまで行かなくても成り立たなくなる事情が生じてくると大変なので、その場合にはそのように注記することが求めらます。

今回のエルピーダの件では、以前から多額の負債の償還が迫っていることが新聞でも取り上げられていましたが、借り換えのスポンサー交渉がまだはっきりとまとまっていないことが注記の理由とされました。

もちろん、注記があるからといって、ただちにつぶれてしまうわけではないのですが、交渉の行方が会社の継続に大きな影響を与えるため、 注記に至ったようです。

かつて半導体立国として世界を席巻した日本も、海外勢に押されつつあります。

最後に残ったともし火の一つとして、同社には頑張って継続企業でいてほしいと思います。

第8回 キャッシュ・フロー-身の丈に合った投資とは?


前回は、黒字倒産を招きがちなキャッシュ・フローの落とし穴についてご説明しました。

今回は、投資とキャッシュ・フローの関係についてみてみましょう。

2011年11月21日、JR東海は中央新幹線、通称リニア中央新幹線の中間駅の建設費は全て自社負担とすることを発表しました。
いよいよ21世紀の乗り物、夢のリニアモーターカー建設に向けて動き出すことになります。
筆者が子供の頃、図鑑や絵本などで、未来の乗り物として紹介されていたリニアモーターカーに心躍らせていたものです。

さて、大人になりますとそういう夢物語だけでなく、会社、お金、といった現実と向き合わなければなりません。

今回のリニア新幹線建設には、5兆を超える建設費がかかると言われています。
加えて今回、中間駅の建設費負担も表明したので、建設費は更に増えることになるでしょう。
一体、そんな建設費をまかなえるものなのでしょうか。

このようなとき、キャッシュ・フロー計算書が役に立ちます。

一般に、設備投資は営業キャッシュ・フローの範囲内に収めるのが健全な経営、と言われています。
これは極めて単純な計算から成り立っています。
第2回で見たように、キャッシュ・フローは営業、投資、財務、の3つで成り立っています。
したがって、投資キャッシュ・フロー<営業キャッシュ・フローであれば、残りの財務キャッシュ・フローを除けば、キャッシュ・フロー合計は常にプラスになります。
言い換えれば、投資キャッシュ・フロー<営業キャッシュ・フローであれば、余計な借金をしないで済む、ということになるわけです。
反対に、投資キャッシュ・フロー>営業キャッシュ・フローになってしまうとキャッシュ・フローはマイナスになってしまいますので、自己資金を取り崩すか、あるいは借金をしなければなりません。

図は、平成23年度のJR東海(東海旅客鉄道株式会社)のキャッシュ・フロー計算書、それからJR東海が発表しているリニア新幹線の事業計画書に基づくキャッシュ・フロー計算書を記したものです。

これによると、平成23年度は営業キャッシュ・フローが十分にあり、投資も営業キャッシュ・フローの範囲でまかなわれていることが分かります。
一方、リニア新幹線が開業するまでの年平均を見てみますと、営業キャッシュ・フローは3800億円と現在よりも控えめの見積もりながら、毎年2900億円(17年間で約5兆円)の投資キャッシュ・フローが必要なことが分かります。
東海道新幹線や在来線にも引き続き投資は行っていかなければなりませんから、そうした投資の毎年1900億円を加えると、毎年1000億円キャッシュが足りなくなります。
そこで、財務キャッシュ・フローに書かれている通り、おそらくは借金によって毎年1000億円のキャッシュをまかなうことが計画されています。

年平均1000億円ですが、開業まで17年、この計算から借入総額は1兆7千億円にも上る計算です。

もちろん、その借入は後の営業収入で返さなければなりません。

夢の実現にはお金が掛かるということですね。

第9回 一株当たりで考えるに続く

第7回 キャッシュ・フロー-ここに注目


前回は、借入金の急激な変動に注意についてご説明しました。

今回は、前にも一度説明したキャッシュ・フローをもう少し細かく見ていくことにしましょう。

図は、前回でも紹介した、倒産してしまった不動産会社のキャッシュ・フロー計算書です。

色々な項目が並んでいますが、特に注目したいのは、(税金等調整前)当期純利益、減価償却費、売上債権の増減額、たな卸資産の増減額、法人税等の支払額、です。

まず、多くのキャッシュ・フロー計算書は、当期純利益からスタートします。
しかし、利益=キャッシュ・フローではないことに注目してください。

利益が十分にあっても、最後のキャッシュ・フローが少なくなっていると、キャッシュに結びつかない利益であることが分かります。これが悪化すると黒字倒産になってしまいます。

次に、減価償却費を足していることに注目しましょう。
減価償却費というのは、設備などを購入して、その購入代金=コストを使用期間に渡って分割して費用にするものです。
つまり、減価償却費の場合は、キャッシュの支出はずっと前にあり、減価償却の分だけ利益を押し下げているので、ここで足し戻しています。

次に注目したいのは、売上債権の増減額です。売上債権は、得意先からまだ回収していない売上代金ですが、貸借対照表でみたように、売上債権が増減すると、必ずどこかに影響が出ます。
売上が大幅増なら、利益もそれに従って大きく増えることが期待されます。しかし、代金回収に至らないと、キャッシュの入りは少なくなります。その分、利益から引かなければなりません。
売上債権増が、キャッシュ・フロー上は反対にマイナスになっているのはそういう訳です。

同様に、たな卸資産の増減額も注目しましょう。
たな卸資産、すなわち在庫を増やすには、一般には資金が必要です。従って、たな卸資産の増加は、キャッシュ・フローにはマイナスと成ります。

売上債権とたな卸資産の増加がキャッシュに与える影響から、次のことが分かります。
事業が拡大しているときは、売上が増え、それに伴って売上債権やたな卸資産が増えます。
上で見たように、これらが増えると両方ともキャッシュ・フローの減少原因になります。
事業拡大時には、それを支える資金が必要なのですが、この落とし穴にはまって黒字倒産を迎えてしまうことがあるので注意が必要です。

最後に、法人税等の支払額にも注目しておきましょう。
当然のことですが、利益が上がれば税金を払わなければなりません。
しかも、納税額が確定したら、現金で支払わなければなりません。
ここにも、キャッシュ・フローの落とし穴があります。
利益は大きいが、キャッシュ・フローを伴わない状態のときは、利益に対して税金が掛かりますので、資金負担が増えます。
ただでさえ、キャッシュ・フローが少ないときに、税金、しかもキャッシュでの負担は大きいです。
利益が出て喜ぶだけでなく、キャッシュを伴っているか、利益増が却ってキャッシュの負担になっていないか、に注意する必要があります。

第8回 キャッシュ・フロー-身の丈に合った投資とは?に続く

第2回 次にここを見る!キャッシュ・フローは会社の命


前回は、損益計算書のうち、ビジネスの大きさが分かる「売上高」と、儲けである「営業利益」「当期純利益」について解説しました。

今回は、「キャッシュ・フロー」を見てみましょう。

「キャッシュ・フロー」とは一言でいうと、現金の流れです。
会社にとって、現金は命、とよく例えられます。
会社は現金がなくなってしまえば終わりです。

「黒字倒産」という言葉があります。
会社がどんなに利益が出ていても、現金がなくなってしまうと会社がつぶれてしまうことを指しています。
反対に、「こんな赤字会社がよく生き残っているな」と思うこともあります。それは、赤字であっても誰かがお金を貸したり、出資したりして支えているからです。言い換えると、赤字であっても現金が続く限りは会社は生き延びることができます。

その、会社の現金の流れを知ることができるのが、「キャッシュ・フロー計算書」です。

現金の残高だけならば、「貸借対照表」を見れば載っています。
前期と当期を比較すれば、現金が増えているか、減っているかも分かります(「貸借対照表」の読み方は次回以降でご説明します)。
しかし、どうして現金が増えている/減っているのか、貸借対照表と損益計算書だけでは、その原因を知ることはできません。
これを分かるようにしたのが「キャッシュ・フロー計算書」です。


金融庁による公開情報EDINETより再構成。

キャッシュ・フロー計算書は、まず下から見ていくとよいでしょう。

まず、一番下の行、「現金及び現金同等物の期末残高」は、その記載通り、期末の現金の残高を表しています。
次に、下から3番目の行、「現金及び現金同等物の期首残高」は、その記載通り、期首の現金の残高を表しています。
したがって、下から4番目の行、「現金及び現金同等物の増減額」がその差、つまり現金の増減になっていることに注目してください。
(ここでは「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」も含まれていますが、特殊なケースです)
上記の例では、当連結会計年度の現金は+308億円と、大幅に増加していることが分かります。

その、現金の増減の原因を構成しているのが、上に書かれている
「営業活動によるキャッシュ・フロー」「投資活動によるキャッシュ・フロー」「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つです。
(さらに、海外の子会社があるときは、「現金及び現金同等物に係る換算差額」という項目も出てきます)

「営業活動」は、文字通り営業から生じるキャッシュ・フローです。

これが黒字ならば、とりあえず本業は順調といえるでしょう。
上記の例では、当連結会計年度は886億円の現金を稼ぎ出しています。
仮にここが赤字ですと、本業で現金が持ち出しになってしまっていることを表します。
赤字は、必ずしも悪いとは言い切れません。
事業の特殊性で、在庫を先に大量に確保しなければならなかったり、客先からの代金を回収するのに長い時間がかかるときは、赤字になることもあります。

「投資活動」は、主に設備や土地を購入/売却することから生じるキャッシュ・フローです。

設備以外にも、保証金を入れたり、ソフトウェアなどに投資したり、別の会社に投資することも含まれます。
ここは通常は赤字であることが多いです。普通に投資をしていれば、出ていくお金の方が大きいからです。
上記の例では、当連結会計年度は233億円の現金を投じていることになります。
仮に、ここが「営業活動」を超えるような赤字だと、かなり積極的な投資を行っていると見ることができます。
反対に、何か大きな設備や土地、あるいは子会社などを売って、まとまったお金が入ると黒字になることもあります。

「財務活動」は、「営業活動」と「投資活動」を支える資金を調達したり、返したりすることを表しています。

「財務活動」の赤字が大きいときは、「営業活動」や「投資活動」で稼いだ現金をさかんに返していることを意味しています。
上記の例では、当連結会計年度は288億円の現金を返したことになります。
手持ちの現金が多すぎ、目先の投資案件があまりないとき、借金を返したり、あるいは株主に現金を返す(配当したり、減資する)こともあり得ます。
「財務活動」の黒字が大きいときは、「営業活動」や「投資活動」を支える現金を沢山調達している状態を意味しています。

「キャッシュ・フロー計算書」は本来、「営業活動」「投資活動」「財務活動」のそれぞれの内訳についても詳しく書かれています。
それらを分析すると、さらに詳しい原因を分析することができますが、その解説は次回以降にゆずります。

第3回 会社の状態を知る、貸借対照表に続く