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第14回 エルピーダメモリの継続企業の前提とは


前回は、法人税減税と、繰延税金資産との関係をご紹介しました。

今回は、新聞でも目にする「継続企業の前提」とは一体何かをご説明します。

2012年2月14日、エルピーダメモリは平成24年3月期第3四半期決算において、継続企業の前提に重要な疑義が生じているとの発表を行いました。

さて、この「継続企業の前提」とは、一体何でしょうか。

一般に、会社はずっと続くことを前提に事業を営んでいます。「そんなこと当たり前だろう」と言われればその通りですが、会計の世界ではより重要な話となります。

例えば、多くの会社は品物を売るときにいちいち現金で代金を受け取りません。月末に締めて請求書を送り、翌月末に振り込んでもらう、といった形ではないでしょうか。

これを「掛売り」といい、品物をお客様に渡した段階で売上を立てます。実際に代金を受け取るときは、掛け代金(売掛金)の回収、として処理します。

それが可能なのは、今月末も来月末もおそらく会社は健在で、請求書も発行するし代金も回収するだろうとの前提に立っているからです。

もし、今月で会社がなくなってしまうとすると、請求書も発行されませんし、代金を来月回収しようにも、おそらく銀行口座もないでしょう。したがって、会社がなくなる前提では、代金の回収されない売上を計上してよいのか、という話になってしまいます。

また、会社は工場を建てたり機械を買いますが、そのコストはその時の費用にするのではなく、将来何年にも渡って減価償却します。

これも、その減価償却の期間中、会社が継続することが前提になっています。

もし会社がすぐになくなってしまうなら、将来に渡って減価償却する意味はなく、その工場や機械は幾らで転売でき、幾らを債権者や株主に返せるか、という話になってしまいます。

このように、会計の多くは、会社が継続して成り立っていることが前提で処理を行っているので、継続して成り立たないとなると、会計そのものが否定されてしまうのです。

そこで、会社は継続して成り立つかどうかを決算(半期や四半期も含む)のたびに検証することになっています。

成り立たないとなると大変ですが、そこまで行かなくても成り立たなくなる事情が生じてくると大変なので、その場合にはそのように注記することが求めらます。

今回のエルピーダの件では、以前から多額の負債の償還が迫っていることが新聞でも取り上げられていましたが、借り換えのスポンサー交渉がまだはっきりとまとまっていないことが注記の理由とされました。

もちろん、注記があるからといって、ただちにつぶれてしまうわけではないのですが、交渉の行方が会社の継続に大きな影響を与えるため、 注記に至ったようです。

かつて半導体立国として世界を席巻した日本も、海外勢に押されつつあります。

最後に残ったともし火の一つとして、同社には頑張って継続企業でいてほしいと思います。

第13回 繰延税金資産とは~減税の影響


前回は、大王製紙の売上が減ってしまうお話をご紹介しました。
今回は、新聞でも目にする「繰延税金資産」とは一体何かをご説明します。
2012年2月10日の日本経済新聞に、法人税減税と繰延税金資産の関係が書かれていました。
紙面では簡単にしか書かれていませんので、もう少し深堀りして説明しましょう。

繰延税金資産とは

繰延税金資産とは、一言で簡単に言うと税金の前払いのようなものです。
会社に課される主な税金には、法人税と住民税、事業税があります。これらは主に会社の所得に対して課されます。
会社の会計上の利益と所得は必ずしも一致しませんが、税法に従って計算した利益が所得、と考えると分かりやすいでしょう。
一般に、所得が赤字の会社は税金を払いません(厳密には均等割という固定の税金もあります)。 このとき、赤字の分を繰り越して、将来に所得が黒字になり、税金を払わなければならなくなったときに相殺することができます。これを繰越欠損といいます。
景気の影響を受けやすく、赤字になったり黒字になったりを繰り返す企業への公平を期すための制度です。
これまでに赤字が続いた会社は、この繰越欠損金が溜まっています。言わば将来支払う税金のための貯金と言えるでしょう。
ただ、これがどれだけ溜まっているかは、会計上の決算とは異なる税務上の計算であるため、決算書を見ただけでは分からなかったのです。
将来払わなくてすむ税金があれば、将来のキャッシュフローにも影響を与えますし、利益のうちから剰余金に回る金額も変わります。

これから投資しようとする投資家には、是非とも知りたい情報です。
そこで、今年損失が出たとしても、そのうち幾らが将来の税金と相殺できる貯金なのかを把握するため、繰延税金資産という項目に振り替え、将来税金を払うときにそれを取り崩す処理をするようになりました。
(厳密には、赤字以外にも繰延税金資産を生じる理由はあります。また反対に、今年は税金を支払わないで済んだが、将来支払わなくてはならない分を繰り延べる、繰延税金負債、というものもあります)

減税の影響

さて、繰越欠損というものは、いつまでも繰り越せるわけではなく、繰り越せる年数が決まっています(2012年2月現在、7年)。従って、繰延税金資産として計上できる税金の前払いも、将来7年で取り崩せる範囲が限界、ということになります(監査上はもう少し厳しい要件をおいています)。
将来取り崩す原資は、将来払う税金です。将来支払う税金が少なくなると、取り崩せる原資も減ってしまいます。
将来の利益水準が低く、もともと繰延税金資産を取り崩し切れるのもギリギリだった会社は、減税によって将来支払う税金が低くなると、繰延税金資産が取り崩せなくなります。
取り崩せない繰延税金資産は、償却しなければなりません。
法人税税の減税は、高税率の日本企業にはありがたいですが、 償却損が生じるとなると、頭が痛い問題です。

第12回 大王製紙の売上が減る?


今年初めての更新です。
前回は、事業別の業績を知る方法をご紹介しました。
昨年までは決算書の全体的な読み方のお話をしてきましたが、今回からは、時々新聞などで登場する分かりにくい専門用語をやさしく解説していきたいと思います。

2012年1月14日、大王製紙は子会社の異動を発表しました。
これにより、減収(売上が減ること)になると発表されました。
大王製紙グループは、傘下に多くの会社を抱えていますが、子会社として過半数の株式を持っているわけではなく、多くは過半数未満でした。
ただ、創業家がそれら傘下の会社の経営も握っていたため、子会社として扱われていました。

子会社とするかどうかは、単純に子会社の株式を過半数持っているかどうかではなく、実質的に支配しているかどうかで判定します。
今回、創業家一族が経営から外れたことで、これらの子会社を実質的に支配している、とは言えなくなったため、子会社から外したということです。

さて、子会社から外すことがどうして売上の減少につながるのでしょうか。

一般にグループ企業の決算は、「連結決算」といい、親会社だけでなくグループ会社を一体とみなす決算を行います。
具体的には、グループ企業すべての会社を全部合算したうえで、グループ内の取引は打ち消す(相殺消去)処理を行います。
今回、大王製紙のグループ会社が子会社から外れる、ということは、この連結決算の対象から外れること、すなわち合算の対象でなくなることを意味しています。

このため、子会社の売上(のうち外部に対する部分)がなくなるので、グループ全体として売り上げが減ってしまうように見えるのです。

第11回 事業別の業績を知る方法-セグメント情報


前回は、決算書の財務情報を少し離れ、会社の経営を担う人々や株主構成について知る方法をご説明しました。

今回は、事業別の業績を知る方法をご紹介します。
最近の企業は、経営多角化により複数の事業を営んでいることが多いです。
そうすると、会社の業績は、それら複数の事業のそれぞれの業績に左右されることになります。
順調にいっている事業もあれば、うまくいっていない事業もあります。それらを一体として、会社グループ全体が成り立っているわけです。
有望な新規事業が伸びているかもしれないし、本業のうち大黒柱であった事業がだんだんうまくいかなくなってきているかもしれません。
しかし、会社全体の業績を見ても、どの事業がうまくいっているのか、あるいはうまくいっていないのかは分かりません。

これを知るのが「セグメント情報」というものです。

セグメント情報は、前回でご紹介した「有価証券報告書」に載っています。第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 の注記情報として記載されます。
webサイトにセグメント情報を載せる会社もあるようです。
例は、ソニーの平成23年3月期のセグメント情報をもとに、見やすいよう体裁を整えたものです。

EDINETの情報をもとに再構成

ソニーといえば家電やゲームなどの電機、音楽の会社として知られています。
例を見ると、確かにコンスーマー・プロフェッショナル&デバイスという事業が全体の半分を占めているようです。
しかし、コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスの利益は極端に少なく、金融が稼ぎ頭であることが分かります。
2011年11月、ソニーはテレビ事業の不採算についての今後の見通しを発表しました
それによれば、平成24年度は、テレビ事業について、売上高8,750億円、営業損失1,750億円が見込まれるということです。
上記の例で言えば、テレビ事業の売上はコンスーマー・プロフェッショナル&デバイスの約4割程度ですが、営業利益(損失)について言えば、会社全体に及ぼすほどの損失になってしまったことを表しています。

次に、過去の決算が問題となったオリンパスの例を見てみましょう。
ちょうど数日前の2011年12月26日に、過去の決算を訂正した決算書、臨時報告書が提出されました。こちらもEDINETで見ることができます。

EDINETの情報をもとに再構成

オリンパスについては、過去の決算に問題はあったものの、本業のうち内視鏡などの医療事業は非常に収益性が高いと言われていました。上記の例で、営業利益又は営業損失(△)を見ますと、確かに会社全体の業績に対して大きな収益の貢献をしていることが分かります。
事業環境の変化により、昔と事業内容が変わっている会社もあります。

気になる会社があったら、セグメント情報を見てみましょう。

第10回 財務以外の情報-有価証券報告書を見よう


前回は、一株当たりで考えるということで、一株当たり利益や純資産と株価についてご説明しました。
今回は、決算書の財務情報を少し離れ、会社の経営を担う人々や株主構成について知る方法です。

大王製紙の不正事件は一定の収束を見たようです。それにしても、第三者委員会の報告書でも述べられていた通り、オーナー一族の支配権は相当のものだったのでしょう。
それでは、いったいオーナー一族はどれほど株式を持っていたのでしょうか。

上場会社は全て、法律により「有価証券報告書」という書類を提出することが義務付けられています。

この有価証券報告書は、誰でも見ることができます。以前は大手書店で1冊幾ら、で売られていましたが、現在は、EDINETというwebサイトで見ることができます。ユーザー登録も不要で、もちろん無料です。

世間でよく知られている名前でなく、正式な会社名で検索する必要がある(「ユニクロ」を経営するのは「ファーストリテイリング」)など、少しコツがありますが、情報に制約はありません。

実際に、有価証券報告書を開いてみると、左に見出しが表示され、右にその本文が表示されます。

最初に、「第一部 企業情報」「第1 企業の概況」と続き、「主要な経営指標等の推移」には、これまでご紹介してきた主要な財務の数値がダイジェストとして表示されています。

「沿革」を見ますと、会社のこれまでの歩みが描かれています。会社の歴史を見るようで、興味深いです。

また、「従業員の状況」を見ると、平均年齢や平均給与が書かれています。あくまで平均なので、全体を代表しているわけではありませんが、若い会社かどうか、ベンチャー投資には役立つかもしれません。
就職活動の参考にもなるでしょう。
「第2 事業の状況」には、「業績等の概要」の部分でその事業年度の出来事が文章で書かれています。損益計算書の会社の業績の数字と見比べながら読むと、どのような背景があったのかがわかります。

「第4 提出会社の状況」「株式等の状況」、の特に 「大株主の状況」を見ると、株主構成、特に大株主の構成が分かります。次に説明する役員の状況と合わせると、いわゆるオーナー会社かどうか、また、そのオーナーがどのくらいの株を持っているかが分かります。
何々ファンドとか、何々インベストメント、何々キャピタルといった名前は、主に投資ファンドです。
下世話な話ではありますが、配当金の情報と組みわせると、創業社長が配当金でどのくらいもらっているかも分かります。
役員報酬はもうもうわなくていい、と創業社長が発言して話題になることがありますが、充分な配当金収入があるのでしょう。

さて、問題の大王製紙ですが、平成23年3月期の有価証券報告書を見てみましょう。「大株主の状況」にはオーナー一族の名前はありません。
ただ、幾つか資産管理会社のような社名があります。これは、財務諸表の注記のあたりにある、「関連当事者」という情報と照らし合わせると、オーナー一族の会社かどうか分かります。
それによると、大王商工株式会社(7.39%)とエリエール総業株式会社(3.14%)が該当するようです。
これらを合わせると約10%がオーナー一族に支配されていることが分かります。
他にも書かれていない小さな持ち分はあるかもしれませんが、それらを足しても30%は超えないかもしれません。
オーナーとは言いますが、過半数は所有していないようです。

「役員の状況」を見ると、どのような役員構成かが分かります。
年齢も分かるようになっているので、いわゆるオーナー会社かどうかが分かります。
社長より年齢が2-30歳若い役員がいると、御曹司なのかな、と想像します。
ベンチャー企業では若い役員がもちろん目立ちますが、社外取締役として年配の、大企業幹部経験者が入っていることが多いのも特徴です。

他にも色々な情報が載っています。一通り目を通すと、会社のことがかなり分かるようになります。

第9回 一株当たりで考える


前回は、キャッシュ・フローと投資の関係についてご紹介しました。

今回はキャッシュ・フローを離れて、一株当たり利益と、一株当たり純資産についてご説明します。
損益計算書には、一株当たり利益、貸借対照表には一株当たり純資産がそれぞれ注記されています。
上場会社では、財務ハイライトに書かれていることもあります。
どうしても見つからない時は、会社の発行済株式総数が分かれば、損益計算書の末尾の当期純利益と、貸借対照表の純資産をそれぞれ株式総数で割って求めてもよいでしょう。
(厳密には計算方法がきちんと決まっていて、幾つかの要素を含めて計算しなければならないので、あくまで簡便的な方法です)

上場会社ともなりますと、規模も大きいので、純利益や純資産の額も何億円、何十億円となり、今ひとつピンときません。
このとき、一株当たり利益や一株当たり純資産が役に立ちます。

上場会社であれば、一株幾ら、といった株価があるわけですから、それと比較すれば、自分の持っている、またはこれから買おうと思っている会社がどの程度の儲けか、価値がどのくらいか、を知ることができます。

会社に投資するからには、配当などの何らかのリターンを期待するわけですが、その原資は主に利益となるわけです。
一株当たり利益から、だいたい幾らくらいの配当ができるものなのか、予想することができます。

一方、純資産は会社の資産から負債を引いた残りです。
極端なことを言うと、会社を仮に今日畳むとして、資産を全部売り払い、負債を全部返したら、幾ら手許に残るか、ということです。
すなわち、会社の価値を示していることになります。
一株当たり純資産は、そういう意味で、会社の一株当たりの価値を表しています。
これがなぜ、会社の取引価値である株価と同じではないのか、というと、株価には将来の会社の成長とか、配当の可能性といった要素が織り込まれるからです。

今、何かと話題の、オリンパスの一株当たり利益と一株当たり純資産、株価を例にとって見てみましょう。
2011年11月29日の終値は、1,003円でした。一時は5百数十円まで下がりましたから、随分持ち直したものです。

一方、オリンパスのwebサイトの決算短信によりますと、平成23年3月期の一株当たり利益は、27.47円、一株当たり純資産は、613.39円となっています。
例の一連の騒ぎにより、決算数値は修正される可能性がありますが、一応これを元にみてみましょう。
株価は1,003円ですから、一株当たり純資産を上回っています。つまり、貸借対照表に書かれた以上の価値が期待されていることを今の株価が示しています。他方、一時は5百数十円まで下がったことを思い起こすと、その当時は会社の価値は貸借対照表に書かれているよりも低いと考えられていたことが分かります。
不正会計の全貌が見えなかったので、もしかしたら貸借対照表の純資産に食い込むような損失が隠れているかもしれない、そんな心理が株価に影響したと言えるでしょう。

そのような疑惑の一方、直近の業績としては、後の決算修正の影響は別として、一株当たり利益は27円でした。
株価1,003円で買い、利益が27円とすると、利益率は2.7%と言えます。この全てが配当になるわけではありませんが、一つの尺度とはなるでしょう。

第10回 財務以外の情報-有価証券報告書を見ように続く

第8回 キャッシュ・フロー-身の丈に合った投資とは?


前回は、黒字倒産を招きがちなキャッシュ・フローの落とし穴についてご説明しました。

今回は、投資とキャッシュ・フローの関係についてみてみましょう。

2011年11月21日、JR東海は中央新幹線、通称リニア中央新幹線の中間駅の建設費は全て自社負担とすることを発表しました。
いよいよ21世紀の乗り物、夢のリニアモーターカー建設に向けて動き出すことになります。
筆者が子供の頃、図鑑や絵本などで、未来の乗り物として紹介されていたリニアモーターカーに心躍らせていたものです。

さて、大人になりますとそういう夢物語だけでなく、会社、お金、といった現実と向き合わなければなりません。

今回のリニア新幹線建設には、5兆を超える建設費がかかると言われています。
加えて今回、中間駅の建設費負担も表明したので、建設費は更に増えることになるでしょう。
一体、そんな建設費をまかなえるものなのでしょうか。

このようなとき、キャッシュ・フロー計算書が役に立ちます。

一般に、設備投資は営業キャッシュ・フローの範囲内に収めるのが健全な経営、と言われています。
これは極めて単純な計算から成り立っています。
第2回で見たように、キャッシュ・フローは営業、投資、財務、の3つで成り立っています。
したがって、投資キャッシュ・フロー<営業キャッシュ・フローであれば、残りの財務キャッシュ・フローを除けば、キャッシュ・フロー合計は常にプラスになります。
言い換えれば、投資キャッシュ・フロー<営業キャッシュ・フローであれば、余計な借金をしないで済む、ということになるわけです。
反対に、投資キャッシュ・フロー>営業キャッシュ・フローになってしまうとキャッシュ・フローはマイナスになってしまいますので、自己資金を取り崩すか、あるいは借金をしなければなりません。

図は、平成23年度のJR東海(東海旅客鉄道株式会社)のキャッシュ・フロー計算書、それからJR東海が発表しているリニア新幹線の事業計画書に基づくキャッシュ・フロー計算書を記したものです。

これによると、平成23年度は営業キャッシュ・フローが十分にあり、投資も営業キャッシュ・フローの範囲でまかなわれていることが分かります。
一方、リニア新幹線が開業するまでの年平均を見てみますと、営業キャッシュ・フローは3800億円と現在よりも控えめの見積もりながら、毎年2900億円(17年間で約5兆円)の投資キャッシュ・フローが必要なことが分かります。
東海道新幹線や在来線にも引き続き投資は行っていかなければなりませんから、そうした投資の毎年1900億円を加えると、毎年1000億円キャッシュが足りなくなります。
そこで、財務キャッシュ・フローに書かれている通り、おそらくは借金によって毎年1000億円のキャッシュをまかなうことが計画されています。

年平均1000億円ですが、開業まで17年、この計算から借入総額は1兆7千億円にも上る計算です。

もちろん、その借入は後の営業収入で返さなければなりません。

夢の実現にはお金が掛かるということですね。

第9回 一株当たりで考えるに続く

第7回 キャッシュ・フロー-ここに注目


前回は、借入金の急激な変動に注意についてご説明しました。

今回は、前にも一度説明したキャッシュ・フローをもう少し細かく見ていくことにしましょう。

図は、前回でも紹介した、倒産してしまった不動産会社のキャッシュ・フロー計算書です。

色々な項目が並んでいますが、特に注目したいのは、(税金等調整前)当期純利益、減価償却費、売上債権の増減額、たな卸資産の増減額、法人税等の支払額、です。

まず、多くのキャッシュ・フロー計算書は、当期純利益からスタートします。
しかし、利益=キャッシュ・フローではないことに注目してください。

利益が十分にあっても、最後のキャッシュ・フローが少なくなっていると、キャッシュに結びつかない利益であることが分かります。これが悪化すると黒字倒産になってしまいます。

次に、減価償却費を足していることに注目しましょう。
減価償却費というのは、設備などを購入して、その購入代金=コストを使用期間に渡って分割して費用にするものです。
つまり、減価償却費の場合は、キャッシュの支出はずっと前にあり、減価償却の分だけ利益を押し下げているので、ここで足し戻しています。

次に注目したいのは、売上債権の増減額です。売上債権は、得意先からまだ回収していない売上代金ですが、貸借対照表でみたように、売上債権が増減すると、必ずどこかに影響が出ます。
売上が大幅増なら、利益もそれに従って大きく増えることが期待されます。しかし、代金回収に至らないと、キャッシュの入りは少なくなります。その分、利益から引かなければなりません。
売上債権増が、キャッシュ・フロー上は反対にマイナスになっているのはそういう訳です。

同様に、たな卸資産の増減額も注目しましょう。
たな卸資産、すなわち在庫を増やすには、一般には資金が必要です。従って、たな卸資産の増加は、キャッシュ・フローにはマイナスと成ります。

売上債権とたな卸資産の増加がキャッシュに与える影響から、次のことが分かります。
事業が拡大しているときは、売上が増え、それに伴って売上債権やたな卸資産が増えます。
上で見たように、これらが増えると両方ともキャッシュ・フローの減少原因になります。
事業拡大時には、それを支える資金が必要なのですが、この落とし穴にはまって黒字倒産を迎えてしまうことがあるので注意が必要です。

最後に、法人税等の支払額にも注目しておきましょう。
当然のことですが、利益が上がれば税金を払わなければなりません。
しかも、納税額が確定したら、現金で支払わなければなりません。
ここにも、キャッシュ・フローの落とし穴があります。
利益は大きいが、キャッシュ・フローを伴わない状態のときは、利益に対して税金が掛かりますので、資金負担が増えます。
ただでさえ、キャッシュ・フローが少ないときに、税金、しかもキャッシュでの負担は大きいです。
利益が出て喜ぶだけでなく、キャッシュを伴っているか、利益増が却ってキャッシュの負担になっていないか、に注意する必要があります。

第8回 キャッシュ・フロー-身の丈に合った投資とは?に続く

第6回 貸借対照表-借入金の急激な変動に注意


前回は、換金できない資産についてご説明しました。

今回は、貸借対照表の負債、特に借入金に注目してみることにします。

借入金とは文字通り会社の借金のことです。
通常は銀行から借り入れますが、親会社から借りることもありますし、オーナー色の強い会社ですとオーナー一族から借りる、ということもあります。

また、合わせて見ておきたいのが社債です。借入金の場合は、銀行から借り、同じ銀行に返すわけです。
社債の場合は、社債という債券を発行してお金を借り、返すときはその社債を持っている人に返す、という仕組みです。
社債を持っている人は、別の人に社債を売ることもできるので、貸したお金を早期に回収できるメリットがあります。
このため、最初に社債を持っていた人と、返すときに社債を持っている人は違うことがあります。

借入金であれ社債であれ、お金を借りる状況というのは、要するにお金が必要になったからです。
お金が必要な状況というのは、資産を買うとか、別の負債、例えば支払手形や買掛金を支払うとか、もしくは何かの費用を賄うような状況でしょう。

実は、貸借対照表というのは、資産と負債純資産の合計が常に一致するような仕組みになっています。
それで「対照表」と呼ばれるのです。
この仕組みから、借入金=負債が増えるとき、
1. 資産を買えば資産が増えます。
2. 別の負債を支払えば、借入金が増える代わりに別の負債が減ります。
3. 費用が増えると利益が減ります。利益の蓄積は純資産になるので、純資産が減ることになります。
このように、借入金が増えると、その影響がどこかに出るようになっています。

図は、倒産してしまったとある不動産会社の最後のx1年、x2年の2年間の貸借対照表を並べたものです。

借入金に注目してみましょう。
まず、短期借入金がx2年に異常に増えています(図の*1)。
短期借入金だけでなく、新株予約権付社債や長期借入金も増えています(図の*1)。
x2年には相当の借金を増やしたことが分かります。
他の負債は劇的に減っているものはありません。
したがって、この借金は別の負債を返済するためではなく、何か資産を買ったのか、あるいはよほど大きな費用の支出があったか、ということでしょう。

そこで資産を見てみると、他の資産は対して変わっていないものの、棚卸資産だけが異常に増えています(図の*2)。
多額の借金をして、在庫を増やした、ということになります。
この会社は不動産会社なので、在庫、つまり販売目的の不動産の手持ちが増えたことを示しています。

次の事業展開に向けて在庫の積み増し、というのはよくあることです。
そのために資金が必要な場合もあります。
しかし、その積み増した在庫が売れないと、在庫が増え、借金も増えてしまうという状況に陥ります。
これが、図が示している状況です。

最後に、本題から外れますが純資産にも注目しましょう。
利益剰余金が増えています(図の*3)。
つまり、この会社の利益が増えているので、黒字だったことが分かります。
黒字なのに倒産してしまう、黒字倒産の典型と言えるでしょう。

今回のように、前の年と比較して借入金などが異常に増えたり減ったりしているときは、その影響が他のどの部分に出ているのかを見ることが重要です。

第7回 キャッシュ・フロー-ここに注目に続く

第5回 貸借対照表-換金できない資産に注意


前回は、決算書をもっと深掘りしてみたい時に、どこで決算書が手に入るかをご説明しました。

今回は、再び貸借対照表に戻って、少し細かく見ていくことにします。

私は、貸借対照表を見るときに、どんな資産で構成されているかを見ることにしています。
その中で、注目するのが、換金できない資産というべきものです。

現金は当然として、在庫や株式などの証券は、幾らで売れるかは別として売ればお金になります。
建物や機械、土地などもそうでしょう。

しかし、貸借対照表の資産を見ていると、そうではない資産もあることに気づきます。
次の貸借対照表を見てください。分かりやすくするため、通常は換金できなさそうな資産に色を付けました。

前払費用というのは、先にお金を払ってあって、今年の費用にはならないが、来年の費用になるものです。家賃の前払いなどがこれに当たります。
長期前払費用というのは、前払費用の一種ですが、費用になるのが来年以降、数年に渡るものです。いずれにしても、先にお金を払ってあるものです。
繰延税金資産というのは、いわば税金の前払いです。
例えば、繰越欠損といって、今年生じた赤字を将来納める税金から差し引くことができたりする場合に、それを先取りして資産に計上しておくことができるものです。
のれんは、最近オリンパスの買収などで新聞にもよく登場するものです。買収した時に、買収先の会社の資産を評価してもなお、買った時の値段が高いときの差額です。
のれんについて、詳しくはこちらをご覧下さい。

前払費用や長期前払費用は、後で必ず費用になるものです。したがって、会社の業績が下向きになりつつあるときは、それらが将来の重荷になってくる可能性があります。
繰延税金資産も、将来に利益が出て、税金を納めるときに差し引ける、という性質のものですので、将来利益が出ないと納める税金も少なくて済む一方、この繰延税金資産も差し引けなくなる、ということになります。
のれんも、その事業を売却するときに幾らの価値を持つものかは分かりません。また、事業そのものが赤字が続くと、「減損」と呼ばれる損失処理を迫られることもあります。
※「減損」について、詳しくはこちら

これらについて共通して言えることは、全て何らかの費用の前払いとか、差額とかいうもので、それ自体は換金が難しいものです。
これらは、事業が順調である時には特に問題はありません。
ただ、事業が順調でなくなってきたときに、将来の収益に大きな負担となったり、あるいは会社の価値そのものに影響を与えることがあります。
筆者は、これらの存在を否定するものではありませんが、業績が下向きつつあるときなどは注意が必要です。

第6回 貸借対照表-借入金の急激な変動に注意に続く