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第4回 決算書はどこで手に入る?


前回は、会社の状態を知る、貸借対照表について説明しました。

第1回から第3回までにご紹介してきた項目だけでも、会社のだいたいの様子をつかむことはできます。
次回以降は、より深く掘り下げて決算書を見ていきたいと思います。

さて、より深く掘り下げてみたいとき、会社の決算書はどこに行けば手に入るでしょうか。

上場会社であれば、たいていwebサイトを持っているでしょう。
webサイトの中から、「IR情報」という項目を探してみてください。たいていはトップページにリンクがあります。
「IR情報」とは、Investor Relation、つまり投資家向けの情報を載せてあるところです。
「投資家」といっても、証券会社とか大手銀行に限っているわけではありません。
その会社の株を持っている人、これから買おうと思っている人も立派な投資家です。
会社に興味を持って、これから決算書を見ようと思っているあなたも立派な投資家であるわけです。

「IR情報」に行くと、沢山の情報が置いてあって圧倒されます。
プレスリリース、決算短信、有価証券報告書、等々。

多くの会社は、「財務ハイライト」という項目を用意しています。
第1回からご紹介してきた主な項目は、たいていここにまとめて記載されています。
ここだけでも、かなり多くの情報が得られますが、もう少し掘り下げたいと思うときは、「IR情報」にある、決算短信を見るとよいでしょう。
「決算短信」は証券取引所が規則で義務付けているもので、上場会社が所定の様式で決算書を載せているものです。

上場会社でない場合には、情報は限られていることもあります。
会社によっては、上場会社でなくても「IR情報」「財務ハイライト」などを載せている会社もありますし、「貸借対照表」「損益計算書」などの情報を載せているところもあります。
もし株主であれば、法律で株主総会の前に株主宛てに必ず決算書が送られる(またはwebサイトに掲示する)ことになっているので、そこで決算書を手に入れることができます。

株主でもない場合には、決算書を手に入れることは難しくなります。
法律では、日刊新聞か官報に、少なくとも貸借対照表(会社の規模によっては損益計算書も)を公表することが義務付けられていますが、何月何日に載せる、ということは決まっていないので、探すのは困難です。

取引先、あるいはこれから取引をしようとする会社であれば、「貴社の財務内容を知りたいので決算書をください」と頼んでみることもできるかもしれません。
商売の途中で相手が倒産してしまっては大変ですから、事前に決算書を見ておきたい、というのは当然のことだからです。

どうしても情報が入手できない時には、有料ですがリサーチ会社を利用することもできます。
「帝国データバンク」「東京商工リサーチ」といったリサーチ会社は、お聞きになったことがあるかもしれません。
既にリサーチ済みの会社であれば、比較的安価で情報を手に入れることができます。
ただし、小さい会社になると毎年リサーチしているわけではないので、情報が古いか、または得られないこともあります。
その場合は、高額の特別料金を支払ってリサーチしてもらうことになります。

第5回 貸借対照表-換金できない資産に注意に続く

第3回 会社の状態を知る、貸借対照表


前回は、会社の命ともいえるキャッシュ・フローの流れをつかむ「キャッシュ・フロー計算書」を見ました。

今回は、貸借対照表について説明します。
貸借対照表を見ると、決算期時点でその会社がどういう状態にあるかを読み取ることができます。

細かく見ていくと、沢山のことが分かるのですが、危ない兆候が出ていないか、一目で見るべきポイントをいくつかご紹介します。

この決算書は、数年前に破たんした、とある会社の貸借対照表です。

金融庁による公開情報EDINETより再構成。

会社が健全である場合には、どこがどのように健全か、何が成長の源泉になっているか、見るべきところはいろいろ変わってきます。
反対に、会社が危なそうなときには、「あれ、大丈夫かな」と思うようなポイントが幾つかあります。

1番目のポイント-売上代金と在庫、借入れ

1番目のポイントは、売上代金と在庫です。
会社の多くは、現金商売ではなく、あとで売上代金を回収する仕組みになっています。その、あとで回収する売上代金は、「受取手形」「売掛金」という項目で表されています。
この数字は、売り上げたものの、まだ代金をお客さんから回収していない、ということを意味しています。
会社の大きさに比べて、この数字が異様に大きいと、大丈夫かな?と思います。
もちろん、回収までの時間が非常に長い、という特殊な業界も存在します。
それでもここがあまりに大きいと、「なぜそんなに未回収が多いのだろう?」と疑問を持ちます。

次に在庫を見ましょう。ここも同じように、金額が大きいと、大丈夫かな?と思います。
こちらも、もちろん売れるまでの時間が非常に長い、という業界も存在します。
それでも、在庫があまり大きいと、「仕入れたり、製造したのはいいが、売れ残っている可能性があるのではないか」と疑問を持ちます。

この会社の例では、売上代金、すなわち受取手形及び売掛金はそれほど大きくはないものの、在庫がかなり大きいと分かります。

その次に、支払手形と買掛金を見ます。
これは、上で説明した在庫を売るために、仕入れた代金のうちまだ支払っていないものです。
この金額が大きいと、いずれは仕入れ先に払わなければならないお金が相当あることを表しています。
その資金は、上で説明した売上代金を回収してくるか、あるいは残った在庫を売ってさらに代金を回収するか、あるいは借りてこなければならないわけです。

合わせて、借入金も見ておきます。借入金には、短期と長期があるのですが、特にここでは短期を見ます。
短期借入金は、すぐに(会計のルールでは1年以内に)返さなければならない借入です。

そこで、上記の支払手形と買掛金、借入金を合わせると、どれだけお金を支払わなければならないかがある程度分かります。

この会社の例では、借入金がかなり大きいことが分かります。
在庫をかなり抱えている一方、借入も大きいわけです。

2番目のポイント-「その他」

2番目のポイントは、「その他」です。
「その他」とは文字通りその他、であって、いろいろなものが含まれています。いろいろなものですから、通常はその金額が大きくなることはあまりありません。
しかし、ここが大きくなっていると、何か特別な理由がある、ということになります。
もし大きい場合は、もう少し掘り下げてみる必要があります。
この会社の例では、「その他」はそれほど大きくはありません。

3番目-評価・換算差額

3番目のポイントは、「評価・換算差額」です。
「含み益」または「含み損」という言葉があります。厳密にいうと違うのですが、概して「含み益」や「含み損」に相当するものがここに含まれています。
ここがマイナスの場合、「含み損」であることを表しています。大きな金額でなければ問題ありませんが、「利益剰余金」を上回るようだと、実質的には今までの利益の蓄積を食いつぶしてしまっている状態といえます。

もちろん、これらに挙げるポイントが悪い数字になっているからといって、即、その会社が危ない、ということはありません。
何かしら理由があるはずで、掘り下げて調べていくことで、その理由もある程度分かってきます。
そうした掘り下げをするときに、やみくもに調べるのではなく、これらのポイントから始めることで、兆候をつかみやすくすることができるでしょう。

第4回 決算書はどこで手に入る?に続く

第2回 次にここを見る!キャッシュ・フローは会社の命


前回は、損益計算書のうち、ビジネスの大きさが分かる「売上高」と、儲けである「営業利益」「当期純利益」について解説しました。

今回は、「キャッシュ・フロー」を見てみましょう。

「キャッシュ・フロー」とは一言でいうと、現金の流れです。
会社にとって、現金は命、とよく例えられます。
会社は現金がなくなってしまえば終わりです。

「黒字倒産」という言葉があります。
会社がどんなに利益が出ていても、現金がなくなってしまうと会社がつぶれてしまうことを指しています。
反対に、「こんな赤字会社がよく生き残っているな」と思うこともあります。それは、赤字であっても誰かがお金を貸したり、出資したりして支えているからです。言い換えると、赤字であっても現金が続く限りは会社は生き延びることができます。

その、会社の現金の流れを知ることができるのが、「キャッシュ・フロー計算書」です。

現金の残高だけならば、「貸借対照表」を見れば載っています。
前期と当期を比較すれば、現金が増えているか、減っているかも分かります(「貸借対照表」の読み方は次回以降でご説明します)。
しかし、どうして現金が増えている/減っているのか、貸借対照表と損益計算書だけでは、その原因を知ることはできません。
これを分かるようにしたのが「キャッシュ・フロー計算書」です。


金融庁による公開情報EDINETより再構成。

キャッシュ・フロー計算書は、まず下から見ていくとよいでしょう。

まず、一番下の行、「現金及び現金同等物の期末残高」は、その記載通り、期末の現金の残高を表しています。
次に、下から3番目の行、「現金及び現金同等物の期首残高」は、その記載通り、期首の現金の残高を表しています。
したがって、下から4番目の行、「現金及び現金同等物の増減額」がその差、つまり現金の増減になっていることに注目してください。
(ここでは「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」も含まれていますが、特殊なケースです)
上記の例では、当連結会計年度の現金は+308億円と、大幅に増加していることが分かります。

その、現金の増減の原因を構成しているのが、上に書かれている
「営業活動によるキャッシュ・フロー」「投資活動によるキャッシュ・フロー」「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つです。
(さらに、海外の子会社があるときは、「現金及び現金同等物に係る換算差額」という項目も出てきます)

「営業活動」は、文字通り営業から生じるキャッシュ・フローです。

これが黒字ならば、とりあえず本業は順調といえるでしょう。
上記の例では、当連結会計年度は886億円の現金を稼ぎ出しています。
仮にここが赤字ですと、本業で現金が持ち出しになってしまっていることを表します。
赤字は、必ずしも悪いとは言い切れません。
事業の特殊性で、在庫を先に大量に確保しなければならなかったり、客先からの代金を回収するのに長い時間がかかるときは、赤字になることもあります。

「投資活動」は、主に設備や土地を購入/売却することから生じるキャッシュ・フローです。

設備以外にも、保証金を入れたり、ソフトウェアなどに投資したり、別の会社に投資することも含まれます。
ここは通常は赤字であることが多いです。普通に投資をしていれば、出ていくお金の方が大きいからです。
上記の例では、当連結会計年度は233億円の現金を投じていることになります。
仮に、ここが「営業活動」を超えるような赤字だと、かなり積極的な投資を行っていると見ることができます。
反対に、何か大きな設備や土地、あるいは子会社などを売って、まとまったお金が入ると黒字になることもあります。

「財務活動」は、「営業活動」と「投資活動」を支える資金を調達したり、返したりすることを表しています。

「財務活動」の赤字が大きいときは、「営業活動」や「投資活動」で稼いだ現金をさかんに返していることを意味しています。
上記の例では、当連結会計年度は288億円の現金を返したことになります。
手持ちの現金が多すぎ、目先の投資案件があまりないとき、借金を返したり、あるいは株主に現金を返す(配当したり、減資する)こともあり得ます。
「財務活動」の黒字が大きいときは、「営業活動」や「投資活動」を支える現金を沢山調達している状態を意味しています。

「キャッシュ・フロー計算書」は本来、「営業活動」「投資活動」「財務活動」のそれぞれの内訳についても詳しく書かれています。
それらを分析すると、さらに詳しい原因を分析することができますが、その解説は次回以降にゆずります。

第3回 会社の状態を知る、貸借対照表に続く

第1回 まずはここから見よう!会社のビジネスの大きさと儲け


いよいよ決算書を見てみましょう。

決算書には、大きく分けて「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3つがあるのですが、世間に多くある本のように、それらを体系立てて説明してもあまり面白くありませんから、まずは実物をみるところから始めましょう。

下記は、「ユニクロ」ブランドで有名な、ファーストリテイリングという会社の決算書のうち、「損益計算書」という部分を抜き出したものです。

金融庁による公開情報EDINETより再構成。

私が決算書を見るときは、まず売上高を見ます。
最近の会社の経営では、「売上至上主義」に対する批判もあるのですが、それはともかく、会社がいったいどのくらいの大きさのビジネスをしているのか、ざっくりと掴むにはやはり売上を見るのが一番いいのです。

売上高は、「損益計算書」という決算書の中で、一番上に載っています。
平成20年は、売上685,043で、平成21年は売上814,811だったと書いてあります。

日本語で数字を表すときは、万円、億円、兆円と単位が4ケタずつ上がっていきますが、ビジネスの世界では千円、百万円、十億円と3ケタずつ上がっていき、それを,カンマで区切るのが一般的です。
この読み方は、慣れてくると何でもないのですが、慣れないと下からイチ、ジュウ、ヒャク、セン、と数えないと分からないので、最初のうちは大変です。

この表は「単位:百万円」と一番右上に書いてあります。つまり一番小さい数字が百万円ということです。
したがって、平成20年は、売上685,043百万円で、平成21年は売上814,811百万円だということになります。

つまり、平成20年から平成21年までに、売上は増えているのですね。
ユニクロは業績好調と言われていますが、売り上げが増えていることから、なるほどと思います。

売上814,811百万円は、ぱっとみて分かりにくい数字ですが、数えてみると8千148億1千百万円と分かります。
(繰り返しになりますが、慣れるとぱっと8千148億円、とすぐ読めるようになります)

売上8千億円というとなかなか大きな会社だと言えるでしょう。
業種の異なる会社を単純には比較できないのですが、デパートの高島屋の平成23年2月期の売上高は869,476百万円でした。
だいたいそのくらいの大きさだということです。

次に私が注目するのは、「営業利益」です。
細かい解説は次回以降に譲りますが、「営業利益」は文字通り、会社の「営業」で儲けた利益です。
平成21年は132,378百万円、すなわち1323億円あるということです。売上814,811で割ると、16.2%となります。
100円の物を売って16円儲かるということです。あの1,980円のフリースを1着売ると、320円の儲けがでるということですね。
※ここでの「儲け」は、会社の色々な経費も全部差し引いたものです。本社の家賃とかCMの広告費なども引いた残りの儲けです。

業種により様々ではありますが、本業の儲けで16%出せるのはなかなか大変なことです。

最後に注目するのは、「当期純利益」です。
こちらも細かい解説は次回以降に譲りますが、「当期純利益」は税金なども差し引いた、会社の最終的な儲けです。
平成21年は61,681百万円、すなわち616億円あるということになります。
ちゃんと儲かっている会社だということが分かります。

さて、今回注目した数字は「売上高」「営業利益」「当期純利益」ですが、私はいつも、もう一つ、そのトレンドにも注目します。
たいていの決算書は、2期比較と言って、前の年度と今年とを並べて比較しやすいようにしています。

そこから次のことが読み取れます。
平成20年は、売上685,043百万円で、平成21年は売上814,811百万円ですから、売り上げは18%も伸びていることになります。
一方、営業利益は、平成20年は、108,639百万円で、平成21年は売上132,378百万円ですから、営業利益は21%と、売り上げ以上に伸びていることになります。
その理由はいろいろあると思いますが、売り上げ以上に儲けが伸びていれば、事業が成長していることの一つの現れ、と見て取れるでしょうし、反対に売り上げが伸びていても、儲けの伸びがそれ以下であれば、成長はしていても少し無理をしているのかな、と見ることができます。

今日のポイント:

  • 売上を見ると会社の事業の大きさが分かる

  • 営業利益を見ると、本業の儲けが分かる

  • 前年と比較すると、その伸びが分かる

  • 営業利益を売上で割ると、どのくらい儲けの率があるかが分かる

  • さらにそれを前年と比較すると、より儲けが伸びているかも分かる

第2回 次にここを見る!キャッシュ・フローは会社の命に続く