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第10回 財務以外の情報-有価証券報告書を見よう


前回は、一株当たりで考えるということで、一株当たり利益や純資産と株価についてご説明しました。
今回は、決算書の財務情報を少し離れ、会社の経営を担う人々や株主構成について知る方法です。

大王製紙の不正事件は一定の収束を見たようです。それにしても、第三者委員会の報告書でも述べられていた通り、オーナー一族の支配権は相当のものだったのでしょう。
それでは、いったいオーナー一族はどれほど株式を持っていたのでしょうか。

上場会社は全て、法律により「有価証券報告書」という書類を提出することが義務付けられています。

この有価証券報告書は、誰でも見ることができます。以前は大手書店で1冊幾ら、で売られていましたが、現在は、EDINETというwebサイトで見ることができます。ユーザー登録も不要で、もちろん無料です。

世間でよく知られている名前でなく、正式な会社名で検索する必要がある(「ユニクロ」を経営するのは「ファーストリテイリング」)など、少しコツがありますが、情報に制約はありません。

実際に、有価証券報告書を開いてみると、左に見出しが表示され、右にその本文が表示されます。

最初に、「第一部 企業情報」「第1 企業の概況」と続き、「主要な経営指標等の推移」には、これまでご紹介してきた主要な財務の数値がダイジェストとして表示されています。

「沿革」を見ますと、会社のこれまでの歩みが描かれています。会社の歴史を見るようで、興味深いです。

また、「従業員の状況」を見ると、平均年齢や平均給与が書かれています。あくまで平均なので、全体を代表しているわけではありませんが、若い会社かどうか、ベンチャー投資には役立つかもしれません。
就職活動の参考にもなるでしょう。
「第2 事業の状況」には、「業績等の概要」の部分でその事業年度の出来事が文章で書かれています。損益計算書の会社の業績の数字と見比べながら読むと、どのような背景があったのかがわかります。

「第4 提出会社の状況」「株式等の状況」、の特に 「大株主の状況」を見ると、株主構成、特に大株主の構成が分かります。次に説明する役員の状況と合わせると、いわゆるオーナー会社かどうか、また、そのオーナーがどのくらいの株を持っているかが分かります。
何々ファンドとか、何々インベストメント、何々キャピタルといった名前は、主に投資ファンドです。
下世話な話ではありますが、配当金の情報と組みわせると、創業社長が配当金でどのくらいもらっているかも分かります。
役員報酬はもうもうわなくていい、と創業社長が発言して話題になることがありますが、充分な配当金収入があるのでしょう。

さて、問題の大王製紙ですが、平成23年3月期の有価証券報告書を見てみましょう。「大株主の状況」にはオーナー一族の名前はありません。
ただ、幾つか資産管理会社のような社名があります。これは、財務諸表の注記のあたりにある、「関連当事者」という情報と照らし合わせると、オーナー一族の会社かどうか分かります。
それによると、大王商工株式会社(7.39%)とエリエール総業株式会社(3.14%)が該当するようです。
これらを合わせると約10%がオーナー一族に支配されていることが分かります。
他にも書かれていない小さな持ち分はあるかもしれませんが、それらを足しても30%は超えないかもしれません。
オーナーとは言いますが、過半数は所有していないようです。

「役員の状況」を見ると、どのような役員構成かが分かります。
年齢も分かるようになっているので、いわゆるオーナー会社かどうかが分かります。
社長より年齢が2-30歳若い役員がいると、御曹司なのかな、と想像します。
ベンチャー企業では若い役員がもちろん目立ちますが、社外取締役として年配の、大企業幹部経験者が入っていることが多いのも特徴です。

他にも色々な情報が載っています。一通り目を通すと、会社のことがかなり分かるようになります。

第4回 決算書はどこで手に入る?


前回は、会社の状態を知る、貸借対照表について説明しました。

第1回から第3回までにご紹介してきた項目だけでも、会社のだいたいの様子をつかむことはできます。
次回以降は、より深く掘り下げて決算書を見ていきたいと思います。

さて、より深く掘り下げてみたいとき、会社の決算書はどこに行けば手に入るでしょうか。

上場会社であれば、たいていwebサイトを持っているでしょう。
webサイトの中から、「IR情報」という項目を探してみてください。たいていはトップページにリンクがあります。
「IR情報」とは、Investor Relation、つまり投資家向けの情報を載せてあるところです。
「投資家」といっても、証券会社とか大手銀行に限っているわけではありません。
その会社の株を持っている人、これから買おうと思っている人も立派な投資家です。
会社に興味を持って、これから決算書を見ようと思っているあなたも立派な投資家であるわけです。

「IR情報」に行くと、沢山の情報が置いてあって圧倒されます。
プレスリリース、決算短信、有価証券報告書、等々。

多くの会社は、「財務ハイライト」という項目を用意しています。
第1回からご紹介してきた主な項目は、たいていここにまとめて記載されています。
ここだけでも、かなり多くの情報が得られますが、もう少し掘り下げたいと思うときは、「IR情報」にある、決算短信を見るとよいでしょう。
「決算短信」は証券取引所が規則で義務付けているもので、上場会社が所定の様式で決算書を載せているものです。

上場会社でない場合には、情報は限られていることもあります。
会社によっては、上場会社でなくても「IR情報」「財務ハイライト」などを載せている会社もありますし、「貸借対照表」「損益計算書」などの情報を載せているところもあります。
もし株主であれば、法律で株主総会の前に株主宛てに必ず決算書が送られる(またはwebサイトに掲示する)ことになっているので、そこで決算書を手に入れることができます。

株主でもない場合には、決算書を手に入れることは難しくなります。
法律では、日刊新聞か官報に、少なくとも貸借対照表(会社の規模によっては損益計算書も)を公表することが義務付けられていますが、何月何日に載せる、ということは決まっていないので、探すのは困難です。

取引先、あるいはこれから取引をしようとする会社であれば、「貴社の財務内容を知りたいので決算書をください」と頼んでみることもできるかもしれません。
商売の途中で相手が倒産してしまっては大変ですから、事前に決算書を見ておきたい、というのは当然のことだからです。

どうしても情報が入手できない時には、有料ですがリサーチ会社を利用することもできます。
「帝国データバンク」「東京商工リサーチ」といったリサーチ会社は、お聞きになったことがあるかもしれません。
既にリサーチ済みの会社であれば、比較的安価で情報を手に入れることができます。
ただし、小さい会社になると毎年リサーチしているわけではないので、情報が古いか、または得られないこともあります。
その場合は、高額の特別料金を支払ってリサーチしてもらうことになります。

第5回 貸借対照表-換金できない資産に注意に続く