脱税と所得隠しと申告漏れ-東芝子会社のリベート過大計上は本当に悪か?
Tweet読売新聞からYahoo!ニュースへの記事で、東芝子会社がリベートの過大計上による所得隠しがあったと報道されました。
支払うリベートについて、本来作成されるはずの商談確認書と呼ばれる書類が作成されないまま経費として計上されていたものがあったため、と説明されています。
この報道を読んで、所得隠しと申告漏れを混同しているのではないかと違和感を感じました。
1. 会社の決算と税務申告の違い
会社の決算の数字と税務申告の数字は、実は大きく異なります。
法人税は、税法に従って計算された課税所得と呼ばれる金額に税率を掛けて求めます。しかし、税法の取り扱いと会計の取り扱いが異なることが多く、決算上の利益と課税所得は異なるのです。
報道では、書類が作成されないままリベートを経費にしている点で、いかにも架空の経費を計上したかのように取り上げています。
実際のビジネスの現場では、こういうことはむしろ一般的です。
書類が作成されるのは商談の最後の最後ということもあります。あるいは、年度を締めて実績の数字が固まってから、リベートの計算に入る、ということもあります。
特にリベートというのは、その1年間の商品の販売数が確定してから、数量に応じて値引きをする、というものです。
販売数は大手量販店や小売店などから情報を集め、集計し、間違いがないことを確認して初めて確定します。
そうすると、リベートの根拠となる書類が決算までに間に合わないことがあります。
しかし、決算上は、その期の商売で発生したリベートである以上、そしておそらくは書類手続きさえ整えばそのリベートを支払わなければならない以上、ある程度見積もりの金額を決算に取り込む必要が出てきます。
これは会計基準でも要求されていることで、決して経費の架空計上ではありません。
東芝子会社も、おそらくこの手続きに従って、リベートの見積計上を行っていたのでしょう。
筆者の経験上はむしろそれが普通です。
反対に、リベートの支払いは翌年なのだから、翌年の経費にする、という会計処理を行うと、本来見込むべき、負担の生じている経費を前年の決算に取り込んでいないことになります。こちらの方がむしろ粉飾決算と言えます。
2. 脱税と所得隠しと申告漏れ
これらは本来払うべき税金を払わなかった、という点では同じですが、意図があったかどうかによって悪質性は大きく異なります。
「脱税」というのは、文字通り税金を逃れる目的で、売り上げを隠したり、架空の経費を計上したりして所得を小さくする行為です。
わざと違法行為をしようというのですから、税務当局もこの点は厳しく目を光らせています。悪質な場合は重加算税というペナルティを科すこともあります。
「脱税」と「所得隠し」に明確な定義はありませんが、過去のマスコミ報道から傾向を見ると、「所得隠し」のうち大きなもの、より悪質なものが「脱税」、として取り扱われているようです。
次に「申告漏れ」ですが、これは逃れる意図があってではなく、会社の処理上のミスであったり、会社の判断に基づく申告と、税務当局の考える申告とが異なっている場合に起こります。
特に後者が問題となります。
税務上のルールというものは、実は明確に線引きできないものも多いのです。この点、会社が正しいと判断して行った処理でも、税務当局の見方はそうではない、ということが起こります。
互いの主張が平行線でどこまで行っても譲らない、ということになると、不服審判、あるいは裁判を通じて決着する、ということになります。
実際には、そういう裁判手続の複雑さや長期化を嫌って、会社の方が折れて過去の申告を修正して決着を図ることもあります。
1. で述べたように、決算上の数字と税務申告上の数字は異なります。
今回の東芝子会社の例では、リベートの見積計上を行う一方、申告上もそのまま経費として申告していたように見受けられます。
リベートの見積を申告上も経費としてよいかどうかは、実務上は難しい判断です。
法律上は、債務性のあるものは経費としてよいことになっています。そこで、見積であっても支払いがほとんど確定しているような場合には、経費として申告することもあります。
筆者もそのように経理をした経験があります。
おそらくは、この債務性を巡って、つまりリベートの金額がどのくらい確実なものだったか、ということを巡って税務当局と意見の食い違いがあったのでしょう。
しかし、報道の中でも会社のコメントとして書かれているように、仮装する意図はなかったようですし、最終的にリベートは支出されたということです。
したがって、この件は「所得隠し」ではなく、「申告漏れ」を指摘され、「会社が指摘に応じて修正した」ということだけのように思います。