経済
付加価値とは〜製造業の付加価値低下とその意味
Tweet2012年3月12日付日経新聞に、製造業の付加価値の低下に関する記事がありました。
この付加価値とは何でしょうか。
経済産業省は、企業活動に関する統計を発表しています。
平成22年度の状況は下記のリンクの通りです。
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/h22kakuho.html
経済産業省によると、
付加価値額=営業利益+ 減価償却費+給与総額+福利厚生費+動産・不動産賃貸料+租税公課
と定義されます。
機関によって様々な定義がありますが、一般には、企業の売り上げのうち、他社が生産した部分を除く、自社の経営資源が生み出した部分、と言えるでしょう。
そうすると、これが低下している、ということは、自社の経営資源が生み出した部分が減っている、ということにつながります。
すなわち、厳しい見方をすれば、企業の生産活動が社会であまり評価されていないことになります。
もっと厳しい見方をすれば、例えば営業赤字が続き、給与総額や賃貸料なども上回る状態だと、付加価値額はマイナスとなり、社会にもマイナスの価値をもたらしている、ということになります。
では、付加価値を高めるにはどうしたら良いでしょうか。
月並みな表現ですが、利益を高める、ということに尽きます。上の式をみれば明らかなように、利益、特に営業利益を上げれば付加価値は上がります。
このとき、給与やボーナスをカットしたり、リストラをしてはいけないことになります。
上の式では給与総額の低下につながり、 利益の向上を相殺してしまうからです。
したがってそれ以外の部分、すなわち売り上げを増やすか、仕入を含む経費を減らすことが望ましいことになります。
今の世の中、売り上げを増やすのは大変ですが、自社の製品やサービスに対して、高い値段を払ってもよい、あるいは沢山買いたい、と思わせる仕組みが必要、ということになります。
前者で成功しているのが、日本企業ではありませんが一つの例としてアップルが挙げられるでしょう。
反対に、昨今の業績発表で紙面を賑わせている、日本の家電メーカーやエレクトロニクス企業はいずれも、大幅赤字->リストラ、と、付加価値の面では悪化方向に向かっています。
さて、なぜ付加価値の向上が必要なのでしょうか。企業はそれぞれ、利益(最終利益)が上がればそれで良いのではないでしょうか。
ここで注目したいのは、国内所得、すなわちGDPの計算です。
厳密には多少違いがありますが、GDPは家計と企業の付加価値の合計、とされます。したがってGDPが向上するには、各企業が頑張って、付加価値を向上させないといけないのです。
GDPが向上して景気が良くならないと、それぞれの企業の業績も上向きませんが、 それには一つ一つの企業の付加価値向上の努力が不可欠、ということになります。
何だか、ニワトリが先かタマゴが先か、の循環論法に入ってしまいましたが、景気回復には起死回生の秘策などなく、一つ一つの力の結集が必要なのかもしれません。
もちろん、政府部門がその足を引っ張ることなく、円滑に回るような政策にしなければならないことは、言うまでもありません。
エクソン・モービルが日本から事実上の事業撤退の報道
Tweetロイターは2012年1月4日、アメリカの石油メジャーの一つ、エクソン・モービルが日本から事実上の事業撤退の意向であることを報じました。
撤退事業については、東燃ゼネラル(現在、エクソン・モービルが50.02%を出資する子会社、東証一部上場)が4千億円で譲り受けるということです。
エクソン・モービルと東燃ゼネラルは、1月4日現在、この報道を否定しています。
エクソン発表
東燃ゼネラル発表
エクソン・モービルのガソリンは、日本では、エッソ・モービルの名前で知られています。
外資系企業からみて、日本は未だGDPで世界第三位の経済大国であり、無視できない巨大市場と位置付けられてはいるものの、高齢化社会においては、医療や介護のようなこれから需要の見込める成長分野を除き、多くは成熟市場とみなされています。
一方、同じアジア地域では、中国をはじめとする各国で2ケタの成長が続いていることを考えると、同じ資金を投じる投資先としては、どうしても投資の魅力が薄れます。
したがって、投資家としては、日本からは撤退するか、あるいは最小限度の投資にとどめ、浮いた資金はそうしたアジア成長市場に投じる(経営学でいうcash cow=金のなる木)、というのは極めて合理的な判断、ということになります。
エクソン・モービルの件は、まだ真偽のほどは不明な報道ではあるものの、複数ソースで同様の報道も始まっており、状況を考えるとそのような意向は大いにありえそうです。
国内需要の低迷と円高から、海外へ進出、または対外投資を進める企業が増えています。
その空洞化も懸念されますが、一方でこうした外資の投資引上げによる空洞化も気になるところです。
円高傾向から、どうしても海外からの投資は嫌忌される事情にありますが(円高では海外からの投資は割高であり、また将来円安になると元本割れのリスクも生じる)、少しでも投資の魅力を高める工夫は必要と思われます。
日本経済の再生とは(その2)サービス業の輸出について思うこと
Tweet日本経済の再生とは(その1)から続く
プライベートで台湾に来ています。
気候が比較的おだやかなこの時期にほぼ毎年来ています。
羽田から、台北松山空港(市街地に非常に近い)への直行便ができて、非常に便利になりました。
さて、毎年来ていますと様々な変化に気づきます。
その一つが、残念ながら日本の、かつての独壇場であった電機や自動車のプレゼンスの低下です。
定宿にしているホテルの横には、初めて来台した時にはトヨタの販売店が入っていました。
2、3年前に閉まってしまい、しばらく空き家となっていましたが、今年は別のテナントが入居していました。
街中では、以前はパナソニック、ソニーなどの看板が目立っていましたが、どんどん少なくなっているのに気づきます。
ホテルのテレビはまだ何とかパナソニックですが、いつサムソンに変わってしまうでしょうか。
一方、健闘している日本企業もあります。
スーパーでは日本のお菓子がプレミアムブランドとして売られています。
日本でもよく見かける、P&Gのプリングルスやナビスコのオレオクッキーといった欧米系のお菓子もありますが、もっと沢山の日系のお菓子が、しかも相当のスペースで並んでいるとやはり嬉しくなってしまいます。
文房具売り場では、機能性の高い手帳やファイリング類というとやはり日本製でした。日本語の説明書きの付いたものがそのまま普通に売られています。
アジア圏で検討している産業の一つにコンビニエンスストアがあり、ここ台湾でもセブン・イレブンやファミリーマートなどが大活躍です。
今日は非常に寒くなり、何か1枚着るものを、と思って目に入ったのがユニクロでした。
値段も為替換算するとほぼ日本と同じだったので、1枚買い求めました。
街中では日本のB級グルメが若者に人気のようで、日本語のノボリの立ったラーメン屋や居酒屋もよく見かけます。
日本の製造業は少し元気がありませんが、サービス業を中心に輸出が進んでいることには頼もしさを感じます。
サービス業の輸出に関しては、あまり円高は影響しないと想像されます。
製造業は円高でずいぶん苦しめられていますが、その分をサービス業に頑張ってほしいと思います。
今は飲食業の輸出が多いですが、ほかの業種への展開も考えられるでしょう。日本企業の活躍に期待したいと思います。
資本コストとは(その2)-高い資本コストを要求する投資家とは誰なのか
Tweet前回は、資本コストの意味するところについて解説いたしました。
2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムでは、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。
会社四季報によれば、3月決算の上場会社の売上高営業利益率は、3.2%ということです(平成11年度3月期全産業合計)。
会社の存在理由は利益ばかりにあるわけではない、とか、現在の経済環境下では売上高営業利益率3.2%は、まだ頑張っている方だ、という意見があるでしょう。
筆者も事業会社で事業管理を務めましたので、その苦労は実感できます。
ただ、自社の目線だけでなく、常に違う目線で見てみることも必要です。
もし自分が投資家だったら。
大事な資金をどこに投じるか?
営業利益率が10%を超える会社が世界には多数ある中、営業利益率が数%以下の会社に投じるでしょうか。
投資家というものは、この点については冷徹な目を持っています。
そういう視点でみると、残念ながら今の日本企業の多くは魅力が薄いと言わざるを得ないのです。
特に円高の現在では、海外の投資家からは日本企業は割高に見えます。
「投資家」というとハゲタカファンドやヘッジファンドのようなものをイメージしがちです。
しかし、そうしたハゲタカファンドは市場のごく一部で、資金の出所の50%以上は機関投資家、すなわち回り巡って私たちの年金や、生命保険、投資信託などです。
(東京証券取引所平成22年度株式分布状況調査、投資部門別株式保有状況より)
したがって、投資家の目線というものは、結局は私たちの財産を守る、増やす、という目線そのものなのです。
「高い資本コストを要求する」
それは、海外のプレッシャーとか、一部のファンドの要求だけではなく、取りも直さず私たち自身の要求ということになるでしょう。
私たちの大事な財産のために、日本企業はもっと頑張らなければならない、ということになります。
ところで、利益を増やす、というとすぐに、コストカット、リストラ、という言葉が出てきます。
そうした手段ももちろん必要な局面もありますが、利益追求のために、ひたすらコストカットやリストラを続けなければならない、という議論に筆者は与しません。
この議論はまた次回以降に述べたいと思います。
日本経済の再生とは(その1)
Tweet久しぶりに六本木ヒルズに行きました。
昔、その端のビルに勤めていたことがあり、懐かしく思い出しました。
当時ランチで行きつけだったところに行ってみたところ、残念ながら閉店になっていました。
他にも幾つか空き店舗になったところを見かけました。
家の近所でも少しずつですがシャッターが閉まっていくのが気になっています。
折しも、先週号の日経ビジネス(2011.9.19号)の特集の一つは「事業断絶列島を救え」でした。
これが日本経済のすべてを代表するとは思いませんし、他には成長しつつある分野もあると思いますが、今、日本経済の中で様々なものが急速に劣化、崩壊しつつあるのを危惧しています。
大きな構造物が崩壊するとき、たとえ最初は小さくても、一部の崩壊によって周りがそれを支えきれなくなって続いて崩壊し、さらにそれを支えきれなくなった周囲が次々崩壊する、連鎖反応が起こります。
今日見てきた店舗の閉鎖は、これと同じようなことが起きているような気がしてなりません。
事業縮小によってオフィスが撤退すると、昼間人口が減り、需要が減って飲食店やその他の商業施設が撤退せざるを得なくなります。すると、その事業を営む企業が事業縮小に追い込まれ、さらに需要減退を招く、という構図です。
これを悲観主義的に捉えるのではなく、何とか食い止めて反転につなげる方策をこれから考えていきたいと思います。