Archive for 1月 2011

外資系経理の生活(その5)-予算

外資系経理の生活(その4)-外資系経理の決算の締め切りから続く

USCPAなどの資格を取って、これから外資系企業の経理に勤めてみようと思う方に、「外資系の経理ってどんなところ?」かを何回かに分けてご紹介したいと思います。

予算

外資系の経理では、次年度予算の作成という大仕事があります。予算の作成は前年の夏ごろから始まり年末までかかるという長丁場であり、さらに最終化されるのはその年度が始まってから、ということもあります。
スケジュールとしては次のような流れでしょうか。
夏ごろ 予算作成開始
秋ごろ 次年度計画として本社に提出、承認
年度末 翌年度目標数値として本社と合意
翌年初 年度決算を受けて予算の最終化、執行開始

予算の執行が始まってしまうと、日本企業のようにそれぞれの項目別に予算を厳格に守ったり、項目ごとの細かい予実対比を行ったりはあまりしない代わりに、目標とされる最終利益やキャッシュフローなどの数値が達成可能なのかどうか、見通しを求められるスタンスに変わっていきます。

せっかく長い時間をかけて作った予算があまり使われないのは釈然としないこともありますが、外資系企業では、その予算が作られたプロセスの細分化と、そして何といっても結果を重視します。

すなわち、環境の変化によって見通しを変更する際にも、基本的には立てた目標を厳格に守ることを求められ(=結果責任)、何がどのように変わったのかは予算との細かい比較によって説明を求められます(=説明責任)。

この点は、予算計画とは本社と日本法人との間の約束=契約であり、契約は絶対である、という契約社会特有の考え方に基づいているのでしょう。
したがって、計画に定めた目標を守れないということは、契約違反と捉えられます。
目標設定は大抵、予算で定めた目標を真中にして、最低目標=必達、最高目標=達成できたら理想、のレンジで決定され、賞与がその業績達成度に連動しています。
目標を守れない=契約違反ですから業績連動賞与は当然連動して減らされます。必達にも満たないようですと、契約解除=クビ、のリスクも視野に入ってくるのです。

外資系経理の生活(その6)-外資系企業の監査役監査に続く

固定費と変動費

1月8日日経新聞朝刊にて、信越化学工業金川千尋会長は、自社の半導体ウエハー事業の利益拡大への道について、「固定費は実質ゼロに近付いた。今後は変動費の勝負になる」と述べたそうです。

固定費の割合が大きいと、売り上げが上下したときの業績の変動が大きくなります。すなわち、売り上げが順調であれば問題ありませんが、売り上げが落ち込むとたちまち赤字に転落する、ということです。半導体産業が市況によって大きく業績が変動するのは、半導体産業の多くが装置産業で固定費負担が大きいからです。

したがって、業績の変動を最小限にするには、固定費を削減することが重要です。

一般に、売り上げに連動して増減するものを変動費、そうでないものを固定費といいます。新聞記事では減価償却の耐用年数を短くしたと書いています。すなわち、早期に減価償却を終了することで、償却終了後は減価償却費の負担がもはやなくなった=固定費を抑制することに成功したということなのでしょう。

しかしながら、固定費は減価償却費ばかりではありません。完全な時給制のアルバイトでもない限り、人件費も固定費ですし、固定資産税や水道光熱費の基本料金も固定費です。

したがって、「固定費を実質ゼロに近づける」際に、これらの固定費をどのように処理したのか興味深いところです。

「今後は変動費の勝負」という点についても、今変動費と思っているもののすべてが本当に変動費なのかどうかは一考の余地があります。

自社がサプライヤーに対して支払う費用が仮に変動費だとしても、そのサプライヤーの費用構造の中ではやはり固定費と変動費に分かれているはずです。したがって、変動費の削減を図ろうと思ったら、サプライヤーの費用構造の中で固定費と変動費をどのように削減できるかを考える必要があります。

すると、サプライヤーのさらに先のサプライヤーの費用構造も検討する必要が生じるかもしれません。

費用の削減というと、単にサプライヤーを叩いてコスト削減、という構図が思いつきますが、結局のところサプライチェーン全体で費用構造を再定義する方が、全体としてのコスト削減効果は高くなるかもしれません。

外資系経理の生活(その4)-外資系経理の決算の締め切り

外資系経理の生活(その3)-外資系経理の職位から続く

USCPAなどの資格を取って、これから外資系企業の経理に勤めてみようと思う方に、「外資系の経理ってどんなところ?」かを何回かに分けてご紹介したいと思います。

外資系経理の決算の締め切り

外資系の経理は概して締切が早いです。早いところでは翌月第2営業日、遅くても第5営業日、といったところでしょうか。筆者の勤めていた会社では第3営業日が多かったように思います。

ここでいう営業日は、外資系のカレンダーに倣っており、日本のカレンダーは考慮してくれません。海外の企業は正月は1日のみが休みで2日以降は営業日ですし、5月のゴールデンウィークもありません。したがって、この投稿をする頃には既に第3営業日になっている、という訳です。

したがって、外資系の経理担当者は、正月三が日やゴールデンウィークも関係なく出勤するか、さもなければ前月のうちにある程度見込みで計上しておく、といった工夫が必要となります。

見込みで計上する場合は、ある程度の正確性が求められます。見込みとの差異は翌月に修正することになるわけですが、その差異が大きくなってしまうと、翌月にも影響を与えるからです。どうやって正確性を確保するかが腕の見せ所、ということになります。

締日が短いのは、各国でまとめた数字を更に地域本社でまとめ、地域本社の数字を本社がまとめる、というプロセスが後ろにあるからです。ただ、全社の数字をまとめ上げる日数は、多くの日本企業よりも一般的に短いようです。早く概要を掴んで次の経営に生かす、というスピード経営の表れでしょう。

4-4-5カレンダー

会社によっては、月末、すなわち30日とか31日とかではなく、4-4-5と呼ばれるカレンダーで締め切る会社もあります。

4-4-5カレンダーは、1年間を月ではなく週で分け、1月は4週、2月も4週、3月は5週、4月以降は四半期ごとに再び4-4-5週で月を構成する、というやり方です。

すなわち、2011年の例でいえば、1月は3日から始まり29日に終わります(月曜を週の初めとする場合)。

4-4-5カレンダーを採用すると、週の積み上げが月になるため、週次決算を月次に反映させやすくなります。週次でも様々な業績把握をしているようなスピード感の高い会社に多く見られます。

外資系経理の生活(その5)-予算に続く

謹賀新年

旧年中は大変お世話になりました。

景気の先行きはいまだ不透明ではありますが、財務・会計の分野において、皆様の業績向上に貢献し、ひいては少しでも景気の上昇に貢献できればと考えております。

本年もよろしくお願い申し上げます。

Facebook

Twitter