Archive for 10月 2011

バッチサイズと合成の誤謬

週末になりますと、自宅にはたくさんのDMが送られてきます。
また、アンケートメールやDMメールもたくさん送られてきます。

自動車や不動産、家具などは、ぜひ週末に足を運んでほしい、という意図があるのでしょう。
その他のDMやアンケートは、比較的時間の多い休日に、ぜひ目を通してほしい、アンケートに回答してほしい、ということなのだと思います。
この考え方は、もちろん正しいと思います。

しかし、読む方にとっては、さすがに時間に限りがあります。
誰でも1日24時間しかありませんし、DMを読むだけで24時間を費やすわけにもいきません。
したがって、おのずと、読まれるDMの数は絞り込まれます。
また、休日は趣味や家族サービスなど、別の用事に時間を費やす方も多いでしょう。
そうすると、読まれないまま捨てられるDMも相当の数に上ります。

送る側は、比較的時間に余裕のある(と思われる)週末に合わせてDMを送っているつもりです。
しかし、皆がそのように同じ行動をとると、読み手にはたくさんのDMが届くことになってしまい、そのほとんどが読まれないという矛盾が起きます。
一つ一つの行動は合理的な目的があったとしても、皆が同じ行動をとると、全体としては違った結果を導き出してしまうことを「合成の誤謬」といいます。

このような状況で、より注目してもらうには、他社と少し違った行動をとることです。
他社が一斉に週末に向けてDMを送る一方で、自社は別の曜日にDMを送るわけです。
そうすると、他社のDMが来ない間に、もしかしたらゆっくり読んでもらえる時間ができるかもしれません。

TOC理論というものがあります。
連続しているモデルの中で、何か制約条件=ボトルネックが生じている場合に、そのボトルネックを解消してアウトプットを最大化しよう、というものです。
ボトルネック解消の方法は幾つかありますが、その一つにバッチサイズを小さくする=ボトルネックの処理能力が低くても柔軟に対応可能になる、という方法があります。

今回の場合、DMの読み手の時間は限られている、ということがボトルネックになっています。
その結果、せっかくのDMが読まれずに捨てられてしまうわけです。
一度にDMが大量に届くことは、読み手にとってはバッチサイズの大きい処理が流れてきたことを意味します。
「バッチサイズを小さくする=DMが集中しない他の曜日に送る」ことも必要かもしれません。

「減損」とは

前社長の解任問題でオリンパスが連日話題になっています。
当初は単なる社内コミュニケーションによるものとされていましたが、過去に行われたM&Aの買収価格の問題も浮上し、議論が噴出しているようです。
このM&A案件では、買収してまもなく、リーマンショックによって「のれん」について減損を適用することになったと説明されています。
前回は、その「のれん」について解説しましたが、一方、この「減損」とは何でしょうか。

時を同じく、パナソニックもTV事業で「減損」を行い、1千億円を超える損失を計上すると発表しています。

「減損」とは、文字通り、持っている資産を「減じる」ことによって生じる「損失」のことです。

工場の建物や機械などの資産は、購入した後にその使用期間に合わせて減価償却を行っていきます。
事業が順調な時は、この減価償却をまかなって十分な利益が出ているはずです。
しかし、事業が不調になると、事業の赤字が続き、将来もどうにもなりそうもない、という状況もあり得ます。

このとき、工場の建物や機械などの資産は、引き続き減価償却を行っていくわけですが、この先減価償却を続けても利益がでないとすると、そもそも資産としての価値がないのではないか、という話が出てきます。

現代のように経営環境がめまぐるしく変わる中では、そういう資産を長く置いておいても価値が上がることはあまりありません。
機械などはそのまま持っていても陳腐化していきます。
事業を中止し、別の事業に転換するとしても、工場を取り壊したり、機械を廃棄したりせざるを得ないでしょう。
工場や機械を転売、あるいは事業そのものを他社に転売することもありえますが、赤字事業ですから、やはり売却に際して損失は避けられないでしょう。

このように、事業の将来の見込みが立たなくなった時に、価値を生み出さなくなった資産を現実的な価値にまで落とすことを「減損」といいます。
(実際には、事業の見込み以外にも、土地のような資産そのものの時価が下がったり、物理的に資産がダメになってしまった場合も含まれます)

先のパナソニックの例では、激しい価格競争が続くTV事業から得られる儲けで、TV事業の資産の価値を将来も回収することができない、という評価になったものと考えられます。

減損は、工場の建物や機械などの実体のある資産(「有形固定資産」といいます)のほかにも、先に説明した「のれん」も対象にします。
前に多額の資金を投じて買収した事業から生じた「のれん」も、もしその事業から得られる儲けが低くなってしまったら、「のれん」の価値も低くなる、というわけです。

先のオリンパスの例では、買収はしたものの、そこから得られる儲けが当初の見込みよりだいぶ低くなってしまい、多額の「のれん」を回収できなくなってしまったのでしょう。

減損の会計は比較的新しい考え方です。日本では、多くの会社で平成17年4月から適用開始となりました。
それまでは、経営者は決算について、事業が黒字、赤字、ということだけ考えていればよかったかもしれません。
減損の会計導入後は、事業が赤字に陥ると、たちまち持っている資産そのものまで減損が必要となるケースも出てきて、赤字が増幅する傾向にあります。

常に儲け続けなければならない、いわば全力疾走を常に続けている経営環境にあるといえるでしょう。

「のれん」とは

前社長の解任問題でオリンパスが連日話題になっています。
前社長の解任は社内のコミュニケーションが問題とされたようですが、一方で前社長は過去に同社が行ったM&Aの価格が高すぎたことを問題視しているようです。
2011年10月20日付の日本経済新聞の報道によると、M&Aの買収価格が高すぎて、「のれん」について、「減損」を適用することになったことが書かれています。
さて、M&Aについて必ず出てくる言葉が「のれん」です。
「のれん」というと、飲食店の入り口に掛かっている、いわゆる「暖簾」を思い浮かべますが、M&Aに出てくる「のれん」とは一体なんでしょうか。

会社を買収しようとするとき、様々な方法で買収価格を決めます。
その価格の決め方は、理論的には色々な算定方法があります。
しかし、最終的には売り手と買い手の交渉ごとですから、最後は両者が折り合える金額で買収が成立することになります。

一方、その買収した会社は決算を行い、買収時点での財務諸表というものがあるはずです。
貸借対照表は、その時点での会社の財政状態を表します。
したがって、資産から負債を引いた純資産が、その時点での会社の財務諸表上の価値、ということになります。

ところが、この純資産で買収価格が決まる、ということはほとんどありません。
たいていは会社の資産価値を時価で再評価したり、その会社の事業の将来性を評価したりするので、買収価格は純資産よりも高くなります。

買収した会社は、親会社の財務諸表と一緒に連結することになるのですが、連結するときにこの再評価作業を行います。
しかし、資産や負債を再評価した後でも、どうしても差額が残ります。これを「のれん」といいます。
上に述べたように、その差額の主な内容は、事業の将来性を評価したりして出てくる金額です。その会社の事業の価値そのものといってもよいでしょう。
お店の「暖簾」がその店の価値そのものであるように、このような買収差額、つまり資産などを再評価しても残る事業の価値を「のれん」と呼ぶわけです。

図を見てみましょう。

買収時点での純資産が50となっている会社を買収価格80で買収したとします。
資産や負債を再評価した結果、純資産は20増えたとしましょう。
それでも、買収価格80-再評価20-純資産50=10が残ってしまいます。これが「のれん」というわけです。

ところで、純資産よりも低い価格で買収することもあります。そうすると「のれん」はマイナスになります。これを「負ののれん」といいます。
赤字が続いて誰も買い手がつかなくなってしまった会社に目をつけて、安く買って、親会社のノウハウを上手く移転しながら会社の持っている潜在価値を引き出す。
そういう時に「負ののれん」が発生することがあります。

次回「減損とは」に続く

資本コストとは(その2)-高い資本コストを要求する投資家とは誰なのか

前回は、資本コストの意味するところについて解説いたしました。
2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムでは、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。

会社四季報によれば、3月決算の上場会社の売上高営業利益率は、3.2%ということです(平成11年度3月期全産業合計)。

会社の存在理由は利益ばかりにあるわけではない、とか、現在の経済環境下では売上高営業利益率3.2%は、まだ頑張っている方だ、という意見があるでしょう。

筆者も事業会社で事業管理を務めましたので、その苦労は実感できます。

ただ、自社の目線だけでなく、常に違う目線で見てみることも必要です。

もし自分が投資家だったら。

大事な資金をどこに投じるか?

営業利益率が10%を超える会社が世界には多数ある中、営業利益率が数%以下の会社に投じるでしょうか。

投資家というものは、この点については冷徹な目を持っています。

そういう視点でみると、残念ながら今の日本企業の多くは魅力が薄いと言わざるを得ないのです。

特に円高の現在では、海外の投資家からは日本企業は割高に見えます。

「投資家」というとハゲタカファンドやヘッジファンドのようなものをイメージしがちです。
しかし、そうしたハゲタカファンドは市場のごく一部で、資金の出所の50%以上は機関投資家、すなわち回り巡って私たちの年金や、生命保険、投資信託などです。
(東京証券取引所平成22年度株式分布状況調査、投資部門別株式保有状況より)

したがって、投資家の目線というものは、結局は私たちの財産を守る、増やす、という目線そのものなのです。

「高い資本コストを要求する」
それは、海外のプレッシャーとか、一部のファンドの要求だけではなく、取りも直さず私たち自身の要求ということになるでしょう。

私たちの大事な財産のために、日本企業はもっと頑張らなければならない、ということになります。

ところで、利益を増やす、というとすぐに、コストカット、リストラ、という言葉が出てきます。
そうした手段ももちろん必要な局面もありますが、利益追求のために、ひたすらコストカットやリストラを続けなければならない、という議論に筆者は与しません。
この議論はまた次回以降に述べたいと思います。

資本コストとは(その1)

2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムに興味深い記事がありました。
記事では、米ヒューレット・パッカード社がパソコン事業の分離を検討したことと、日本企業の売上高営業利益率の低さについて述べています。
同部門の売上高営業利益率は5%どまりであると言われているのに対し、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。

資本コストとは

ものの本を読みますと、「資本コスト」とは、「資本を調達するコスト」と書かれています。
資本は他人資本、すなわち借入金や社債などの債務、と自己資本、すなわち株式に分けられます。
借入金や社債であれば、利息が調達コストであることは容易に理解できるでしょう。
いっぽう、株式のような自己資本は、一般には「返さなくてよいお金」と考えられ、これに調達コストがあるとは理解しにくい面があります。

自己資本の資本コストとは

自己資本の資本コスト(資本調達コスト)とは何でしょうか。
それは配当金です。株主であれば、投資=株式に対して、リターンを求めるのは当然で、そのリターンとは配当金、ということになります。
会社は、十分な利益もないのに配当をすることは法律で禁じられているので、配当をするには、裏付けとなる利益が十分に上がっていなければならない、ということになります。

将来株価が上がれば、株主は売却益を手にすることができるのだから、配当がなくても株価が上がっていればよい、という見方をすることもできます。
ただし、根拠もなく株価が上がるわけではありません。この先大きく業績が伸びる、という期待があるから株価が上がるわけで、やっぱり十分な利益を上げることが必要になります。

自己資本の資本コストは借入より高い?

次に、自己資本の方が借入よりも調達コストが高い、と言われるのはなぜでしょうか。
トヨタ自動車は平成23年6月17日の株主総会で、年間の配当金を50円とすることを決議しました。
トヨタ自動車単体の平成23年3月末の一株当たり株主資本(=自己資本)は、2,081円です。したがって、自己資本の資本コストは、50円÷2,081円=2.4%ということになります。

配当は、会社の利益を原資にするわけですから、会社は配当して十分なだけの利益を上げていなければなりません。
配当する前には税金も払わなければなりませんから、50円の配当をしようとすれば、83円の利益を上げなければなりません。
50÷(100%-40%)=83円、日本の税率は、法人税、住民税、事業税など全て含めて約40%と言われています。これを実効税率といいます。
83円÷2,081円=3.9%となりますので、借入と比べると高い率になっていることが分かります。
つまり、2,081円の資本を株主から預かって、83円以上の利益を上げなければ、50円の配当をすることができない、ということです。

資本コストとは(その2)に続く

Facebook

Twitter