SCMと資源の消費

東北地方太平洋沖地震に被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

今日、コンビニに出かけました。棚にはだいぶ商品が並ぶようになり、いつも通りの営業に戻りつつあるようです。
菓子パンを一つ買いました。

さて、このようにようやく元に戻ってきたオペレーションですが、そうなるまでには多くの方々の多大な労力があったはずです。
この菓子パン一つとってみても、サプライチェーンの複雑かつ様々なプロセスの集積があって初めて完成したものなのです。

小麦粉、水、イーストがあれば、パンは作れますが、「製パン」という「製品」「販売」するにはそれだけでは不十分です。
衛生的なビニール袋に包み、クレートと呼ばれるプラスチックのケースに載せ、円滑に流通させる物流システムがなければ店頭に並ばないのです。
そして包装に貼り付けてある製品表示のシール。たかがシールですが、これがなければ食品衛生法違反となり販売できません。

SCMが正常に稼働しているときは、これらの全てが滞りなく流れ、その存在を気に止めることもありません。
一方、現在の状況ではSCMは混乱し、幾つかは回復すらしていません。そんな中では、これら小さな要素の一つでも欠けるだけで、たちまち製品は店頭に届かなくなってしまうのです。

この混乱のもとで菓子パン一つを元通りの流通経路に乗せるには、もしかすると大いなる損失が背後にあったかもしれません。

一般に、企業は非常に厳格な品質基準を設けています。曰く、
・外箱に汚れがあったら納品しない。
・少しでもラベルが曲がったり、傷があったら納品しない。
・xxという原材料はxx度以下で温度管理され、納入後xx分以内に投入されなければならない。
・原材料投入後、xx分以内に全工程を完了し梱包しなければならない。
等です。

この混乱のもとでは、外箱に汚れが付着していたかもしれないし、生産機械も安定せず、ラベルも曲がったりするかもしれません。菓子パンの材料となる生クリームは、停電のため温度が上昇し、廃棄されたかもしれません。
そして、貴重なガソリンを使って運び、何とかしてかき集めてきた原材料を投入しても、途中で停電となって品質基準を満たせずに廃棄になってしまったものも数多くあるかもしれません。

災害復旧のためには、一日も早く供給能力を回復し、少しでも多くの製品を供給することが期待されます。一方で、混乱のもとでは通常通りの低い不良品率で製造することは困難であり、貴重な資源をある程度浪費することを許容しなければなりません。その貴重な資源が無駄にならなければ、別の何か、緊急を要する別の製品のために費やすことができたかもしれないのです。

この状況下で貴重な資源を少しでも無駄にしないよう、品質基準を下げることも考えられます。外箱に多少汚れがあっても、傷があっても、本来の品質に影響はないかもしれません。通常、品質基準には高いマージンがあるので、基準を引き下げることが即事故につながるわけではありません。しかしながら厳格な基準を逸脱することは、混乱のどさくさに紛れて消費者を騙した、と社会的に大きな批判を受けるかもしれません。

正常な製品を製造するために貴重な資源を多数浪費するよりは、いっそのこと操業しない、という選択肢もあり得ます。しかしながら、人命の掛かった状況下において供給責任を果たせないことになるかもしれません。

いずれも一長一短があり、どれが絶対的な正解というものではありません。しかし、いずれかを許容しなければ社会的な要請に応えられないことも事実なのです。

ようやく店に届いた菓子パン一つを手に取って、そんなSCMの裏側を見つめてみました。
一日も早いSCMの回復を祈ります。

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