リコー、HOYAからペンタックスのデジカメ事業を買収

リコーはHOYAからペンタックスのデジカメ事業を買収すると発表しました。

筆者は長年、ペンタックスの防水デジタルカメラを愛用しており、この発表を興味深く読みました。

詳細は明らかになっていないようですが、記者会見でのトップの発言や公表された資料から、色々と興味深い財務内容が伺えます。

■デジカメ事業の売却によって、HOYA首脳は「特別損失を出す予定はない」と発言しています。事業売却に伴う特別損益は、経営判断によって計上する/しないは選択できませんので、「特別損失は出す予定はない」というよりは、「特別損失は出ない」という意味なのでしょう。
もっとも、HOYAはこの3月期からIFRSに移行しており、IFRSでは特別損失の計上が認められないので、そのことを発言しているのかもしれません。

■HOYAは実は4年前の2007年8月にペンタックスを買収しています。その時の発表資料によれば、買付資金の総額は944億円でした。
一方、HOYAが開示した発表資料によれば、分割する事業の資産は212億円、負債は105億円といいますから、差引して純資産は107億円ということになります。
日経新聞の7月1日付夕刊の記事では、今回のリコーによる買収額は100億円と推定しています。この純資産から推定したのかもしれませんが、前述で(日本基準を前提にして)特別損失が発生しないとすると、買収額はもう少し大きいかもしれません。

■リコーの社長は「3年で1000億円を超える事業に育てたい」と発言しています。このことから、現在のリコーのデジカメ事業は、ペンタックスを合わせたとしても、1000億円には達していないと分かります。
旧ペンタックスの資料によりますと、平成19年3月期の連結純資産は431億円もありました。
また当時のセグメント情報によると、イメージング事業全体では売上が811億円、営業利益は31億円、減価償却は21億円となっており、単純に営業利益に減価償却を足して、営業キャッシュフローを簡便的に計算すれば52億円、ということになります。

■HOYAにおいて、デジカメ事業を含む旧ペンタックス事業の概要を知りたかったのですが、セグメント情報は他の事業と一体になっており、旧ペンタックス事業の収益性は分かりませんでした。しかし、HOYAの財務ハイライトによると、2010年3月期はペンタックス事業の売上は1000億円近くはあったことになります。
2年前のイメージング事業811億円から成長しているのでしょう。
ペンタックス(HOYA)のデジカメ出荷台数は、日経新聞の記事によれば163万台。カカクコムによると、多くの製品は小売価格が1万円前後ですので、カカクコムのような最安値取引価格を考慮したとしても、卸売価格の平均もせいぜい1万円未満といったところでしょう。1台の出荷高を仮に1万円とすればデジカメの売上は163億円と推定されます。多くても2-300億円程度なのではないでしょうか。
他方、リコーの出荷台数は50万台。同様に小売価格を見積もれば、売上高は50億円から100億円といったところだと思います。リコーの買収後の売上高は、ペンタックスを合わせて4-500億円程度でしょうか。
そうすると、「イメージング事業」と呼ばれる中には、デジカメ事業以外に他の事業が半分以上を占めていることがわかります。
今回、売却する事業は「デジタルカメラ・交換レンズ、デジタルカメラアクセサリー、セキュリティカメラ関連製品および双眼鏡など光機製品の開発・製造・販売事業」と書かれていましたので、売却するデジカメ関連の事業以外に、ペンタックスから引き継いで、HOYAに残す事業があるように見えます。

以上から、次のようなことが分かります。
■ペンタックスはカメラのブランドとして知られているが、HOYAがペンタックスを買収した時、既にその事業の中心はカメラと同等かそれ以上のイメージング事業があった。
■HOYAはそのイメージング事業の高い収益性に着目してペンタックスを4年前に買収、純資産431億に対して、およそ倍の944億円を投じた。
■今回、デジカメ関連事業を相当の高額(日経の推定では100億円)で売却したが、イメージング事業の大きさから推定すると、HOYAに残すイメージング事業もあるようだ。
■リコーは、自社のラインナップにペンタックスブランドを加えて、デジカメ事業を強化したい。今の売上水準(推定)を少なくとも倍増させたい。

したがって、今回の意思決定では、旧ペンタックス事業の中からHOYAのシナジーに近い、イメージング事業の”おいしい部分”を残した一方で、リコーについても競争の激化するデジカメ事業で、一定のシェア確保をする礎になったと筆者は見ています。

なお、このブログの内容は、発表された資料や発言を一部用いて推定したもので、資料を精査したものではないため、重要情報の見落としや判断誤りの可能性があります。
また、このブログの内容をもって投資売買の勧奨を行うものではなく、また投資意思決定の材料として利用されることを予定していませんのでご注意ください。

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