決算書は承認?報告?

株主総会の季節になりました。

 

日本の多くの会社は3月決算ですが、会社法その他の規定により、株主総会を決算日から3ヶ月以内に開かなければなりません。そのため、6月は株主総会シーズンとして知られています。

 

株式を持っている方は、この時期に株主総会招集通知を受け取られた方もいらっしゃるでしょう。

さて、多くの招集通知、特に上場会社では、決算書は「報告」となっています。

一方、知り合いや親戚の会社の株式を持っている、とか、相続した株式がある場合などで、特に上場していない会社などからは、招集通知で決算書の「承認」を求められることがあります。

 

この、決算書の「報告」と「承認」とは、一体どんな違いがあるのでしょうか。

 

そもそも株式会社は株主のもので、その所有権を記したものが株式です。

 

株主は、日頃の経営には口出ししない代わり、一年の事業の内容を総点検し、それによって経営者である取締役に引き続き経営をやってもらうのか、それともクビにするのか、などを全て株主総会で決めます。

 

従って、総決算である決算書を株主総会で承認する、というのは株主にとって当然のこと、ということになります。

 

しかし、現代のように会社の業務内容が複雑になり、そして会計の方も諸制度が導入されて複雑になると、決算書を見せられて承認してください、というのは一般の株主には難しくなってきます。

 

そこで、一定規模の会社については、決算書が適正に作られているか専門家に判断してもらい、問題がなければ株主へは報告で充分だろう、ということになりました。

これが公認会計士(または監査法人)による会計監査制度です。会社法439条にその規定がありますが、制度自体は旧商法から続いているものです。

 

さて、公認会計士の監査を受けない場合には、決算書は株主総会で承認、ということになりますが、既に出来上がってしまった決算書を承認しない、ということはあり得るのでしょうか。
決算は過去の出来事を数字に起こしたものだから、承認するもしないも、変えようがないような気もします。

 

実は、会計というものは、事実に基づいて記録される部分と、見積もりによって記録される部分とで成り立っています。
事実に基づいて記録される部分というのは、例えば現金で支出した費用とか、現金で受け取った売上とか、通常は金額が決まっており変わりようがない部分です。
(IFRSでは、たとえ現金で受け取った売上でもその通りに記録しないこともあるのですが、それはまた別の機会に述べます)
一方、見積もりによる部分というのは、必ずしも現金によって支出したり受け取ったりしていなくても、その事業年度に起こったことを何らかの基準に基づいて記録するものです。
 
例えば、減価償却費などがこれに相当します。購入した固定資産の値段というものは決まっていますが、それを何年で減価償却するか、ということは企業がその使用年数を判断して決めることになっています。
(日本では、慣行的に税法が定める法定耐用年数を用いることが多いです)
将来起こりうる損失をある程度見込んで計上する、という会計制度もあります。何々引当金、と呼ばれるものがそうです。また、最近導入された「資産除去債務」という会計制度もこれに当たります。

 

筆者は、株主総会で決算書が承認されなかった例というのは見たことがありませんが、例えば次のような事例が考えられるでしょう。
比較的業績が好調だったので、経営者は従業員に決算賞与で報いたいと思い、決算に盛り込みます。
(実際に支給するのは決算の後であっても、従業員の頑張りはその事業年度にあったものですから、その事業年度の決算に見込計上します)。

 

他方、株主は従業員に賞与を支給するのではなく、その分を利益として配当に回してほしい、と思うかもしれません。そこで、決算書を承認せず、賞与の部分を取り下げるよう経営者に要求する、ということが一つの例として考えられるでしょう。

 

あるいは、経営者の作成した決算書がどうにも信用できない、ということであれば、株主は決算書を承認せず、決算のやり直しを命じるかもしれません。 

承認した決算書に基づいて、配当をどうするか決めるのも株主総会の重要な事項です。配当は会社の財産を還元するという、株主の大事な権利の一つですので、そのもとになる決算書を承認する、というのも株主の重要な権利であるわけです。

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