在庫の積み増しは正しいのか?

今回の震災では、高度化された日本のハイテク部品・素材を中心にサプライチェーンがグローバル規模で寸断され、またその全てが十分に回復したとは言い難い状況にあります。
十分に部品が届かないために減産を余儀なくされる企業も未だに多いようです。
この状況下、「ジャスト・イン・タイムの盲点」「サプライチェーンを究極に高めすぎた悪影響」といった議論を見かけます。
その対応策として、「ジャスト・イン・タイム」から一歩後退し、少し在庫を積み増す、といった発言をされるトップ層もお見かけします。

十分な在庫が確保できない今、積み増せる在庫は積み増して、将来の同様の状況に備える、というのは短期的は正しい判断と言えるかもしれません。
部品不足で納品できなければ、収益機会の逸失につながりますし、得意先の信用を失えれば、ほかのサプライヤーに乗り換えられてしまうかもしれません。

しかし、「ジャスト・イン・タイムからの一歩後退」は、本当に正しい選択肢でしょうか。

どのくらいの在庫を積み増すかは、不慮の事故がどのくらい続いても生産をストップしなくて済むか、の予測に基づくわけですが、今回の震災を「想定外」として片づけられない以上、それに対する備えとしては相当程度の在庫積み増しも必要でしょう。
しかし、在庫はあくまでもその、不慮の事故が発生した時のバッファでしかありません。

在庫を積み増してあっても、現在のように供給先の幾つかが完全にストップしてしまっているような状況では、いつかはその在庫を全て使い尽くしてしまいます。
積み増せば陳腐化リスクは大きくなりますし、資金もその分固定化されます。保管料もかかります。
機会損失と信用喪失は回避できそうですが、一方でリスクも増大していると言えるでしょう。
また、皆が一斉に在庫積み増しに走ると、サプライチェーン全体では大きな在庫量となり、その在庫積み増しのために余計に多くの生産が行われ、いよいよ上流で特定の部品なり素材なりが足りなくなることになります。

もし、不慮の事故に備えてリスクを軽減したいのであれば、在庫を積み増すのではなくて、いざという時に供給が途絶えないよう、むしろ複数のサプライヤーを持っておくことでしょう。
サプライヤーが複数あり、地理的にも遠く、またそのさらに上流にも共通のサプライヤーがないようにしておけば、不慮の事故の時にはサプライヤーを切り替えればよいわけです。
もちろん、品質保証や認証、製造ノウハウ、といった観点から、そんなサプライヤーは一朝一夕に見つかるわけではありません。したがって、平時からそうした複数サプライヤーを確保し、かつ自社仕様のための品質確保や認証なども行っておくべきでしょう。

リスクに対する備えは、やはりリスク分散が基本です。在庫の積み増しはリスク分散になっていないように思います。

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