日経新聞深堀り:スカイツリーはもうかるか?

2012年5月23日付日本経済新聞の「真相深層」という記事で、「スカイツリーはもうかるか?」と題して、スカイツリー事業の収支分析が紹介されていました。

 

ここでは、もう少し財務分析の視点を加えて、この記事を掘り下げてみたいと思います。

 

東武鉄道のwebサイトには、決算報告資料が掲示されています。
http://www.tobu.co.jp/file/pdf/6238cf491eb4762aa239875255913c88/111110_11.pdf?date=20120312111027

その22ページには、東京スカイツリー事業の簡単な収支が記載されており、それによれば初期投資額は1430億円、開業5年目の営業キャッシュフローは81億円、とあります。

 

日経新聞の記事では、アナリストの分析によると約20年で回収、と紹介されていました。

 

税金を考慮し、税率を約40%とすれば、税引き後の営業キャッシュフローは81億円*(1-40%)=48.6億円となりますので、
1430億円÷48.6億円=約29年となります。

 

将来的に営業キャッシュフローが増える前提であれば、29年より短い20年の回収も可能性はあるだろうと思いますが、筆者の計算では、このようにもう少し長い印象です。

 

さて、このスカイツリー、もうかる事業なのでしょうか。
営業キャッシュフローを初期投資額で割ってみると、81億円÷1430億円=5.66%となります。
税引き後で考えると、48.6億円÷1430億円=3.40%となります。
これが、東京スカイツリーの投資利回り、と見ることができるでしょう。

 

投資利回り3.40%を高いとみるか低いとみるかは色々な議論がありますが、世界的にみると日本企業の投資リターンは低いと言われています。
投資対象として単純な比較はできないとは思いますが、例えば米国国債30年物の2012年5月24日現在の利回りは、2.84%となっています。

 

東京スカイツリー自体はあと30年の供用はするでしょうから、投資そのものの安全性は概ね大丈夫だとしても、今後の営業収入の下落リスク(いずれ飽きられ、老朽化してくると、入場料や賃料を下げざるを得ないこと)を考えると、30年物の米国債よりはちょっと良い、くらいの投資、ということになるかもしれません。

 

また、折しも約1か月前の4月27日、東武鉄道は平成24年3月期の業績を発表しました。

 

これによると、平成24年3月期の自己資本当期純利益率は、6.0%となっています。

http://www.tobu.co.jp/file/pdf/2fe2139c627a4edba3cc3dd3d5236eb8/120427.pdf?date=20120427153059
東京スカイツリー開業による東武鉄道の増益効果がさかんに各紙でも取り上げられ、営業利益100億円積み増し、のように書かれています。確かに、積み増し額はその通りなのですが、裏に初期投資1430億円があることを忘れてはいけません。

 

東京スカイツリー開業前に6.0%あった自己資本当期純利益率は、それよりも低い3.40%の東京スカイツリー事業によって薄められてしまうことになります。

 

したがって、投資ポートフォリオとしては、数字の上では「もうからない」ということになってしまいます。

 

もちろん、営業キャッシュフロー81億円は東京スカイツリーに関連するものだけで、開業による鉄道収入アップや知名度向上といった数字は表れてきません。
お祭りムードに水を差すような取り上げ方になってしまいました。個人的には、技術の粋を集め、新しいランドマークとなったスカイツリーを応援したいと思います。

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