アサヒグループのカルピス買収報道と情報開示

アサヒグループホールディングスがカルピスを買収するとの報道がありました。

4月27日現在、アサヒグループホールディングスと、カルピスの大株主である味の素は、いずれも検討の事実は認めていますが、報道そのものは自社からのものではないとしています。

http://www.asahigroup-holdings.com/news/2012/0427.html

http://www.ajinomoto.co.jp/

さて、大型買収案件ともなれば、マスコミにとっては一大ニュース、少しでも早くネタをつかんで報道すれば大スクープです。今回も、どこからか情報をつかんでいち早く報道したのでしょう。

これに対して、当事者であるアサヒグループや味の素は、5月3日現在、いまだにその報道を肯定する公式発表を行っていません。この違いはどこから来るのでしょうか。

上場会社が行う合併や買収といった事実に対しては、「金融商品取引法」と「上場規則」の二つの規制を受けます。

上場会社というのは、その株式が取引上に上場されている会社です。株式が上場されていると、株主は取引所を通じて、いつでも株式を自由に売買できます。このとき、誰も知らないような事実を先につかんで、その情報を元に有利な売買ができる「抜け駆け」を許してしまうと、公平な取引ができなくなってしまいます。

このため、「金融商品取引法」や「上場規則」では様々な規制をして、抜け駆けを許さないようにしています。

その一つは、いわゆる「インサイダー取引規制」といわれるもので、誰も知らないような事実を先に知りえる立場にいる人は、その事実を元にして売買を行うと罰せられるようになっています。すなわち、「抜け駆け」をした人を罰する仕組みです。

もう一つは、誰も知らないような事実を「人より先に」知ることができないようにする仕組みです。誰もが同時に、同じ事実を知っていれば、公平な取引になるからです。そこで、そのような事実が発生したときには、すみやかに情報開示を行うことが義務付けられています。

たとえば、東京証券取引所の有価証券上場規程第402条1号には、諸々の事実が生じたときには、直ちにその内容を開示しなければならない、と定められており、合併や買収はその「事実」の一つとなっています。

今回の事例では、「検討の事実」はあるようですが、それでは「すみやかな情報開示」が行われていないのはなぜでしょうか。

もう一つ、注意しなければならないことは、反対に根拠のないことを流してはならない、ということです。

根拠のないことを流して、相場に影響を与えることを「風説の流布」といい、「金融商品取引法」で禁止され、罰則もあります。

おそらくは、買収について調査や分析、交渉などは進めているものの、まだ社内で正式決定には至っていないため、まだ情報開示する段階ではないものと思われます。

マスコミにしてみれば、4月27日に「すっぱ抜き」をしたものの、休み明けの5月1日、2日と平日にも関わらず何の会社発表もなかったので、肩すかしを喰らわされた感じでしょう。

しかし、会社側にしてみれば、正式決定を経ないうちは、詳細な情報開示はできないことになります。

ところで、「会社の正式決定」とは一般には取締役会の決議を指します。最終的な決定承認は株主総会になると思われますが、「会社法」という法律で定められた機関決定の一つが、取締役会決議であるからです。

言い換えると、取締役会決議までは、社内の事情で幾らでも詳細は変わる可能性があります。

したがって、マスコミの取材攻勢に合わせて、いちいち検討の過程を発表し、その内容がたびたび変わってしまうと、それこそ相場に影響を与えるためにわざとそうしている=相場操縦しているのではないか、ということになってしまいます。

会社からの発表が慎重で型にはまったような表現しかしていないのは、そこに理由があります。

筆者もかつて、M&Aを手掛けたことがありました。

会社からの報道発表をXデーと定め、取引所への開示もそれに合わせて行うことになっていました。

Xデーまでは、買収先の会社はコードネームで呼ばれ、情報に接する人もごくごく限られていました。

それでも、時々Yahoo!掲示板をみると、買収をにおわせる書き込みがあったり、株価がじわじわと上がってきたりして、一体どこから情報がもれているのだろう、と疑問に思ったものです。

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