年金はどうして企業の業績に影響を与えるのか(その1)-確定給付年金

年金はどうして企業の業績に影響を与えるのか。年金会計の仕組みを簡単に解説します。

2012年5月8日付日経新聞に、政府は閣僚会議の「成長ファイナンス推進会議」において、確定拠出年金を拡充する方針を打ち出したとありました。

先のAIJ事件における企業年金の消失問題など、年金に関する話題は途切れることがありません。

年金は企業の業績も揺るがす大問題と言われますが、一体何が問題なのでしょうか。

 

企業が支払う年金というのは、いわば退職金の後払いのようなものです。
退職金制度のある会社では、定年退職を迎えると、退職金が支払われますが、これを一度に受け取るのではなく、退職後の一定の期間、受け取るようにすることができます。これが企業年金と言われるものです。
この受け取り方には、確定給付型と確定拠出型の二つの種類があります。

確定給付型というのは、ずっと昔から採用されていた方法で、多くの企業がこれに基づいて年金を支給しています。
年金が毎月決まった金額受け取れる、すなわち「給付額」が「確定」していることから、確定給付年金と言われます。

もともと年金は退職金の分割後払いなのだから、毎月決まった金額を受け取れて当り前だろう、と思いますが、ことはそう簡単ではありません。
後払いされる年金は、企業が預かるのではなく、年金基金といういわばファンドが預かっています。
企業は決まった金額を年金基金に支払い(これを拠出といいます)、基金はそれを元手に運用します。そして、運用で得た投資利益も含めた金額を受給者(元従業員)に年金として支給します。
この支給額が「確定給付額」となっているわけです。


支給額が確定しているということは、その元手になる投資運用もある程度確定している必要があるわけですが、残念ながら昨今の投資環境の悪化から、予定した投資運用ができていない基金が大半と言われています。
そうなると、給付額は一定ですから、基金は過去から積み立てた余裕も取り崩して年金を支払わなければならないことになります。

AIJの事件は、投資運用が低迷して、予定した運用が行えなくなった基金が、一発逆転を狙って運用成績の良かったAIJに乗り換えたことから発生しています。
実際には予定していた運用が行えていなかったどころか、元本を大幅に下回ってしまったわけですから、預かり資産も大幅に小さくなってしまった年金基金も数多くあります。

いずれは年金を支払わなければならない、かつその給付額は一定しているわけですから、資産が大幅に小さくなっているといずれ基金は破たんします。
このとき生じた年金基金の穴埋めは、まず一義的にはその給付元の企業が行わなければならないことになっています。

この穴埋めが突然やってくると、企業の業績は大きくぶれて、大きな影響を与えます。そこで、毎決算期ごとに、企業年金の財政状態を調べ、穴埋めしなければならないとしたら幾ら必要か、を算定し、それを一定の基準で決算に反映させなければならないことになっています。これが、「年金会計」と呼ばれるものです。
ただ、この年金会計は、全ての企業に義務付けられているものではなく、多くは上場会社や大企業に限られます。
中小企業の多くはこの年金会計を採用しておらず、したがってあるとき年金基金から多額の穴埋めを依頼され、たちまち業績が悪化してしまう危険を抱える会社も少なくありません。

このような影響を回避するために導入されたのが確定拠出年金です。
これについては、次回ご紹介します。

Comments are closed.

Facebook

Twitter