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脱税と所得隠しと申告漏れ-東芝子会社のリベート過大計上は本当に悪か?

読売新聞からYahoo!ニュースへの記事で、東芝子会社がリベートの過大計上による所得隠しがあったと報道されました
支払うリベートについて、本来作成されるはずの商談確認書と呼ばれる書類が作成されないまま経費として計上されていたものがあったため、と説明されています。

この報道を読んで、所得隠しと申告漏れを混同しているのではないかと違和感を感じました。

1. 会社の決算と税務申告の違い

会社の決算の数字と税務申告の数字は、実は大きく異なります。
法人税は、税法に従って計算された課税所得と呼ばれる金額に税率を掛けて求めます。しかし、税法の取り扱いと会計の取り扱いが異なることが多く、決算上の利益と課税所得は異なるのです。
報道では、書類が作成されないままリベートを経費にしている点で、いかにも架空の経費を計上したかのように取り上げています。
実際のビジネスの現場では、こういうことはむしろ一般的です。

書類が作成されるのは商談の最後の最後ということもあります。あるいは、年度を締めて実績の数字が固まってから、リベートの計算に入る、ということもあります。
特にリベートというのは、その1年間の商品の販売数が確定してから、数量に応じて値引きをする、というものです。
販売数は大手量販店や小売店などから情報を集め、集計し、間違いがないことを確認して初めて確定します。
そうすると、リベートの根拠となる書類が決算までに間に合わないことがあります。
しかし、決算上は、その期の商売で発生したリベートである以上、そしておそらくは書類手続きさえ整えばそのリベートを支払わなければならない以上、ある程度見積もりの金額を決算に取り込む必要が出てきます。
これは会計基準でも要求されていることで、決して経費の架空計上ではありません。
東芝子会社も、おそらくこの手続きに従って、リベートの見積計上を行っていたのでしょう。
筆者の経験上はむしろそれが普通です。

反対に、リベートの支払いは翌年なのだから、翌年の経費にする、という会計処理を行うと、本来見込むべき、負担の生じている経費を前年の決算に取り込んでいないことになります。こちらの方がむしろ粉飾決算と言えます。

2. 脱税と所得隠しと申告漏れ

これらは本来払うべき税金を払わなかった、という点では同じですが、意図があったかどうかによって悪質性は大きく異なります。

「脱税」というのは、文字通り税金を逃れる目的で、売り上げを隠したり、架空の経費を計上したりして所得を小さくする行為です。
わざと違法行為をしようというのですから、税務当局もこの点は厳しく目を光らせています。悪質な場合は重加算税というペナルティを科すこともあります。
「脱税」と「所得隠し」に明確な定義はありませんが、過去のマスコミ報道から傾向を見ると、「所得隠し」のうち大きなもの、より悪質なものが「脱税」、として取り扱われているようです。

次に「申告漏れ」ですが、これは逃れる意図があってではなく、会社の処理上のミスであったり、会社の判断に基づく申告と、税務当局の考える申告とが異なっている場合に起こります。
特に後者が問題となります。
税務上のルールというものは、実は明確に線引きできないものも多いのです。この点、会社が正しいと判断して行った処理でも、税務当局の見方はそうではない、ということが起こります。
互いの主張が平行線でどこまで行っても譲らない、ということになると、不服審判、あるいは裁判を通じて決着する、ということになります。
実際には、そういう裁判手続の複雑さや長期化を嫌って、会社の方が折れて過去の申告を修正して決着を図ることもあります。

1. で述べたように、決算上の数字と税務申告上の数字は異なります。
今回の東芝子会社の例では、リベートの見積計上を行う一方、申告上もそのまま経費として申告していたように見受けられます。
リベートの見積を申告上も経費としてよいかどうかは、実務上は難しい判断です。
法律上は、債務性のあるものは経費としてよいことになっています。そこで、見積であっても支払いがほとんど確定しているような場合には、経費として申告することもあります。
筆者もそのように経理をした経験があります。
おそらくは、この債務性を巡って、つまりリベートの金額がどのくらい確実なものだったか、ということを巡って税務当局と意見の食い違いがあったのでしょう。

しかし、報道の中でも会社のコメントとして書かれているように、仮装する意図はなかったようですし、最終的にリベートは支出されたということです。
したがって、この件は「所得隠し」ではなく、「申告漏れ」を指摘され、「会社が指摘に応じて修正した」ということだけのように思います。

e-taxでは別表七を電子申告できない

当事務所には10月決算のお客様があり、現在、確定申告を進めているところです。
昨年から本格的にe-taxに移行しましたが、印刷し、どこに判を押していただくかを示し、返信用封筒を用意してお客様にご郵送し、という手間がなくなって、当方もお客様もずいぶん助かっていました。

近々海外へ行く予定があり、少々案件が立て込んでいることもあって、申告は地方税だけ先に済ませ、法人税は海外でゆっくりやれば良いか、などと高をくくっていたのですが、昨日様式を確認していたところ、別表七の欠損金に関する明細が見当たりません。

国税庁のwebによると、平成23年6月30日に法人税法施行規則が改正されたことに伴い、様式の変更が一部間に合っていないとのことです。
平成23年6月30日以後に終了する事業年度又は連結事業年度の法人税の申告にe-Taxを利用する場合のご注意

別表七など様式が用意されていないものについては、別途公開されているPDFにより紙での作成、提出が必要になります。

海外に出発していたら郵送の対応が難しくなるので、事前に気づいてよかったです。

とはいえ、紙の提出がたとえ1枚でも必要になってしまうということは、ひと手間かけなければならず、効率は大きく後退します。
昨年は税務署の担当官からわざわざ電話までかかってきて、「e-taxの推進をよろしく」と言われていたくらいです。
推進する立場の監督官庁の都合で、効率性が後退することになってしまうのは困りますね。

1月上旬には新様式が利用可能になるということです。
筆者自身が持つ有限会社も含め、12月決算は他にも幾つかお客様があるので、12月決算の申告までには間に合ってもらいたいものです。

宝くじは買ってはいけない?

年末ジャンボ宝くじの季節になりました。テレビのCMも盛んに行われています。「当たったら何を買おうか」と胸算用されている方も多いことでしょう。

筆者は宝くじを絶対に買いません。なぜでしょうか。

投資であれギャンブルであれ、その動機というのは、一定の投資の元にリターンを期待するからです。
リターンの額が大きければ大きいほど、良い投資ということになりますが、将来のことは誰にも分かりません。
リターンがあることもあれば、ないこともあります。
投資額を失うこともあります。つまり、宝くじの場合は当たらなかったということになります。

どの程度のリターンが得られるかは、一定の確率によっています。
銀行預金や国債であれば、わずかな利率とはいえ、ほぼ確実にリターンが得られます。つまりリターンが得られる確率は100%に近いでしょう。
株式であれば、長期的にはその会社の将来の収益性の期待によって決まります。
ただし、毎日の株価といったものは、様々な思惑や評判によって乱高下します。
昨今、市場をにぎわすスキャンダルのようなものがあれば、もちろん株価は大暴落しますが、中長期的にその確率をどのように読むかが投資の成功の秘訣と言えるでしょう。
かの大富豪ウォーレン・バフェットは、長期的な投資の視野に優れていると言われています。
この確率の読みが優れているのでしょう。

さて、問題の宝くじはどうでしょうか。

一般に、宝くじの収益還元率は5割以下と言われています。つまり、100円で宝くじを買って、返ってくる当せん金は50円以下、ということです。
実は、「当せん金付証票法」という法律があり、そこでも収益還元率は原則として5割以下、とされています。

「そんな夢のない話を」
「買わなければ当たらないのだから、買い続ければいつかは当たる」
と主張する人もいるでしょう。

統計学に「大数の法則」というものがあります。
発生する条件が一定であれば、母集団が大きければ大きいほど、発生確率は最初に予定された確率に収れんしていく、というものです。

少し難しいことを書きましたが、簡単に言うとこういうことです。
サイコロをランダムに振ります。出た目は1だったり、6だったりするでしょう。
珍しいことですが、10回続けて6が出るかもしれません。
しかし、1千回、1万回、と沢山振っていると、6が出る確率はだんだん1/6に近づいていきます。
もし1/6にならなかったら、そのサイコロは重心が狂っているか、形がゆがんでいると疑ったほうがいいでしょう。

さて、宝くじの場合は、その性質上、抽選方法が厳格に行われています。
衆人監視の元で、回転する円盤に矢を放ちます。
その方法にインチキがあっては大変な騒ぎになりますから、恣意性が入らないように、意図的な操作が行われないように抽選を行います。
この「恣意性が入らない」「意図的な操作が行われない」ことが実はクセモノなのです。
恣意性なく、公平に、偶然に起因するように行えば行うほど、大数の法則により宝くじの当選は当初予定された確率に近くなります。
つまり、5割以下という収益還元率に近づいていくわけです。

初めて1枚買ったら1億円当たった!という人もいるかもしれません。
確率ですから、そういうこともありえます。
しかし、たくさん買えば買うほど、大数の法則によって当初の確率に近づいていきます。
もう何十年も、何枚も買い続けている、という人は、今すぐ買うのを止めたほうがいいかもしれません。

競馬は、馬券発売が締め切られると配当予想が表示されます。
買った人たちの勝ち馬の予想により、ある程度の予想収益還元率が表示されているわけです。
さらに、当日のダートの状態や馬の調子、騎手のリードの仕方などによって、さらに勝率は変わってきます。
この点は、サイコロや宝くじのように、予め確率が決まっていない部分ですので、大数の法則が当てはまりません。

一見、競馬より健全なギャンブルに見える宝くじですが、宝くじを買うよりは、競馬に掛けた方が財務的に健全と言えるかもしれません。
もちろん、競馬を積極的に勧めるものではありません。ギャンブルはほどほどに。

日本経済の再生とは(その2)サービス業の輸出について思うこと

日本経済の再生とは(その1)から続く
プライベートで台湾に来ています。

気候が比較的おだやかなこの時期にほぼ毎年来ています。
羽田から、台北松山空港(市街地に非常に近い)への直行便ができて、非常に便利になりました。

さて、毎年来ていますと様々な変化に気づきます。
その一つが、残念ながら日本の、かつての独壇場であった電機や自動車のプレゼンスの低下です。

定宿にしているホテルの横には、初めて来台した時にはトヨタの販売店が入っていました。
2、3年前に閉まってしまい、しばらく空き家となっていましたが、今年は別のテナントが入居していました。
街中では、以前はパナソニック、ソニーなどの看板が目立っていましたが、どんどん少なくなっているのに気づきます。
ホテルのテレビはまだ何とかパナソニックですが、いつサムソンに変わってしまうでしょうか。

一方、健闘している日本企業もあります。

スーパーでは日本のお菓子がプレミアムブランドとして売られています。
日本でもよく見かける、P&Gのプリングルスやナビスコのオレオクッキーといった欧米系のお菓子もありますが、もっと沢山の日系のお菓子が、しかも相当のスペースで並んでいるとやはり嬉しくなってしまいます。
文房具売り場では、機能性の高い手帳やファイリング類というとやはり日本製でした。日本語の説明書きの付いたものがそのまま普通に売られています。

アジア圏で検討している産業の一つにコンビニエンスストアがあり、ここ台湾でもセブン・イレブンやファミリーマートなどが大活躍です。

今日は非常に寒くなり、何か1枚着るものを、と思って目に入ったのがユニクロでした。
値段も為替換算するとほぼ日本と同じだったので、1枚買い求めました。

街中では日本のB級グルメが若者に人気のようで、日本語のノボリの立ったラーメン屋や居酒屋もよく見かけます。

日本の製造業は少し元気がありませんが、サービス業を中心に輸出が進んでいることには頼もしさを感じます。
サービス業の輸出に関しては、あまり円高は影響しないと想像されます。
製造業は円高でずいぶん苦しめられていますが、その分をサービス業に頑張ってほしいと思います。
今は飲食業の輸出が多いですが、ほかの業種への展開も考えられるでしょう。日本企業の活躍に期待したいと思います。

個人事業を始めた時、やっておいた方がよい税務手続き

起業家の方々の税務のお手伝いをすることがあります。
最初は自分でやろうとしていた、あるいはやっていたが、だんだん手に負えなくなったので税理士にお願いしたい、というご依頼です。

残念ながら、必要な届け出をしていらっしゃらない方もありますし、あるいは、絶対必要ではないが、こういう届をしておいた方が後々楽だったのに、と思うこともあります。

こうした届け出は必ず税理士を通じて行わなければならない、というものではありません。
起業間もないのでお金をかけたくない、という場合には、もちろんご自分で書類を作成して提出することも可能です。
前回は会社設立の際にやっておいた方が良い手続きをご紹介しましたが、今回は個人事業主として事業を始められる際にやっておいた方が良い手続きをご紹介します。

届け出の書類を作成する前の準備

届け出の書類を作成する前の準備として、次のことに留意したほうが良いでしょう。

事業名、住所、代表者名のスタンプを用意する

事業を始めると、税務署への届出だけでなく、様々な申込書など、沢山の書類を書くことになります。全部を手書きにすると大変ですので、
1. 事業名(店名、オフィス名その他)
2. 住所
3. 氏名
のスタンプを用意するとよいでしょう。なお、スタンプを作るときは、これらの3つを一つのスタンプにするのではなく、3つバラバラにできるように作っておきます。
書類によって、店名や住所、代表者名が上下だったり左右だったりするので、3つで一体のスタンプだと使えないためです。

届出書は2部作成する

1部を提出用、1部を手元控えとするためです。窓口へ2部持っていくと、1部は回収されてしまいますが、もう1部は「収受印」というスタンプを押して返してくれます。
2部同じものをいちいち作成するのではなく、1部を作成した後でコピーを取る形でも構いません。ただし、コピーは印を押す前にしましょう。
郵送で提出することもできますが、切手を貼った返信用封筒を同封しておく必要があります。

手続きは税務署と自治体の両方

手続にもよりますが、たいていは、所管の税務署のほか、所在の自治体に行う必要があります。
自治体は、東京23区であれば都税事務所1か所で済むのですが、それ以外の地域では、市区町村役場と都道府県税事務所の両方に行う必要があります。
用紙は、これら事務所でもらってくることも可能ですが、たいていの場合はwebサイトで手に入ります。
所管の税務署がどこになるかは、国税庁のwebサイトで調べることができます。
http://www.nta.go.jp/soshiki/kokuzeikyoku/kankatsukuiki/syozaiti.htm

必要な届け出について

以下、事業を始めた場合の税務の手続きを記します。会社を設立した場合はこちらでご紹介しています。
◎は必要な手続き、○はしておいた方がよい手続きです。

◎個人事業の開業・廃業等届出書

事業を始めた時に必要な届です。税務署と自治体の両方に必要です。
税務署への届け出は設立から2か月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
自治体については、お住まいの都道府県、および市町村でお調べください。
「神奈川県 個人事業 開始 届出」といったキーワードで検索し、目的の自治体のwebサイトで調べましょう。用紙もそこで手に入ると思います。
東京都への届け出は設立から15日以内ですので注意が必要です。

◎給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

給与を支払う際に必要な届です。最初は無給だから不要、と思われる場合でも提出はしておきましょう。
急にアルバイトを雇ったりするかもしれないからです。
税務署への届け出は事業開設から1か月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_11.htm

○源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書

ものすごく長い名前ですが、これは絶対に出しておいた方がよい届出書です。
給与を支払うと、一定の金額を源泉徴収する必要があり、源泉徴収した税金は翌月10日までに納付する必要があります。
言い換えると、毎月給与を支払うと、毎月10日源泉税を納付する必要があるわけです。
最初は従業員を雇わないのでいいや、と思う方もあるでしょう。
源泉は、給与だけでなく弁護士や税理士、社会保険労務士といった人に払う報酬にも行う必要があります。

源泉税の納付は普通、金融機関の窓口で行う必要があります。
毎月10日に金融機関に出向くのは、起業したばかりの人にとっては大変な手間です。
この届け出をしておくと、源泉税の納付は年2回、7月10日と1月10日までに行えばよいことになります。

なお、給与の支給人員が常時10人未満、という制限があります。
提出した日の翌月に支払う給与等から適用されることになっているので、なるべく早くに提出したほうが良いでしょう。
詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_14.htm

○所得税の青色申告承認申請書

青色申告という言葉は耳にされた方も多いでしょう。この制度が承認された事業の申告書の表紙は青色になるので、このような名前がついています。
青色申告が認められると、赤字になった年の損失を繰り延べて、翌年以降支払うべき税金と相殺する(「繰越控除」といいます)ことができるようになります。
また、そのほかにもさまざまな税金の特典を受けられることがあります。
反対に義務として、きちんと簿記に従った帳簿をつけることが求められます。
最近では市販やフリーの会計ソフトを使えば、簿記に従った帳簿が作成できるようになっていますので、出しておいた方が良い申請書です。

税務署への申請は、前の年の事業年度終了日まで、または設立3ヶ月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm

○青色事業専従者給与に関する届出

個人事業の場合、親族に仕事を手伝ってもらって給料を払っても、その給料は経費に算入できません。
ただし、この届出を行っておくと、条件を満たす場合は給料を経費として算入できるようになります。
詳しい条件はこちらに書かれています。
ただし、この取り扱いを受けると、今度は配偶者控除などが受けられなくなります。起業間もなくで、大した給料も払えないようなときは、配偶者控除を受けた方がメリットが大きいこともあるので注意が必要です。

税務署への申請は、事業開始、またはその親族の方に給料を払って手伝ってもらうようになってから2ヶ月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/12.htm

会社を設立した時、やっておいた方がよい税務手続き

起業家の方々の税務のお手伝いをすることがあります。
最初は自分でやろうとしていた、あるいはやっていたが、だんだん手に負えなくなったので税理士にお願いしたい、というご依頼です。

残念ながら、必要な届け出をしていらっしゃらない方もありますし、あるいは、絶対必要ではないが、こういう届をしておいた方が後々楽だったのに、と思うこともあります。

こうした届け出は必ず税理士を通じて行わなければならない、というものではありません。
起業間もないのでお金をかけたくない、という場合には、もちろんご自分で書類を作成して提出することも可能です。

届け出の書類を作成する前の準備

届け出の書類を作成する前の準備として、次のことに留意したほうが良いでしょう。

会社名、住所、代表者名のスタンプを用意する

会社を始めると、税務署への届出だけでなく、銀行向け書類や様々な申込書など、沢山の書類を書くことになります。全部を手書きにすると大変ですので、
1. 会社名
2. 住所
3. 代表者名(できれば氏名だけではなく、「代表取締役 ○○」のように役名入り)
のスタンプを用意するとよいでしょう。なお、スタンプを作るときは、これらの3つを一つのスタンプにするのではなく、3つバラバラにできるように作っておきます。
書類によって、会社名や住所、代表者名が上下だったり左右だったりするので、3つで一体のスタンプだと使えないためです。

届出書は2部作成する

1部を提出用、1部を手元控えとするためです。窓口へ2部持っていくと、1部は回収されてしまいますが、もう1部は「収受印」というスタンプを押して返してくれます。
2部同じものをいちいち作成するのではなく、1部を作成した後でコピーを取る形でも構いません。ただし、コピーは会社印を押す前にしましょう。
郵送で提出することもできますが、切手を貼った返信用封筒を同封しておく必要があります。

手続きは税務署と自治体の両方

手続にもよりますが、たいていは、所管の税務署のほか、所在の自治体に行う必要があります。
自治体は、東京23区であれば都税事務所1か所で済むのですが、それ以外の地域では、市区町村役場と都道府県税事務所の両方に行う必要があります。
用紙は、これら事務所でもらってくることも可能ですが、たいていの場合はwebサイトで手に入ります。
所管の税務署がどこになるかは、国税庁のwebサイトで調べることができます。
http://www.nta.go.jp/soshiki/kokuzeikyoku/kankatsukuiki/syozaiti.htm

必要な届け出について

以下、会社を設立した場合の税務の手続きを記します。個人の事業の場合はこちらで別途ご紹介しています。
◎は必要な手続き、○はしておいた方がよい手続きです。

◎会社設立届

会社を設立した時に必要な届です。税務署と自治体の両方に必要です。
税務署への届け出は設立から2か月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_2.htm
自治体については、お住まいの都道府県、および市町村でお調べください。
「神奈川県 法人 設立 届出」といったキーワードで検索し、目的の自治体のwebサイトで調べましょう。用紙もそこで手に入ると思います。
東京都への届け出は設立から15日以内ですので注意が必要です。

◎給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

給与を支払う際に必要な届です。最初は無給だから不要、と思われる場合でも提出はしておきましょう。
急にアルバイトを雇ったりするかもしれないからです。
税務署への届け出は設立から1か月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_11.htm

○源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書

ものすごく長い名前ですが、これは絶対に出しておいた方がよい届出書です。
給与を支払うと、一定の金額を源泉徴収する必要があり、源泉徴収した税金は翌月10日までに納付する必要があります。
言い換えると、毎月給与を支払うと、毎月10日源泉税を納付する必要があるわけです。
源泉税の納付は普通、金融機関の窓口で行う必要があります。
毎月10日に金融機関に出向くのは、起業したばかりの人にとっては大変な手間です。
この届け出をしておくと、源泉税の納付は年2回、7月10日と1月10日までに行えばよいことになります。

なお、給与の支給人員が常時10人未満、という制限があります。
提出した日の翌月に支払う給与等から適用されることになっているので、なるべく早くに提出したほうが良いでしょう。
詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_14.htm

○青色申告の承認申請書

青色申告という言葉は耳にされた方も多いでしょう。この制度が承認された会社の申告書の表紙は青色になるので、このような名前がついています。
青色申告が認められると、赤字になった年の損失を繰り延べて、翌年以降支払うべき税金と相殺する(「繰越控除」といいます)ことができるようになります。
また、そのほかにもさまざまな税金の特典を受けられることがあります。
反対に義務として、きちんと簿記に従った帳簿をつけることが求められます。
最近では市販やフリーの会計ソフトを使えば、簿記に従った帳簿が作成できるようになっていますので、出しておいた方が良い申請書です。

税務署への申請は、前の年の事業年度終了日まで、または設立3ヶ月以内です。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_14.htm

○申告期限の延長の特例の申請書

法人の確定申告書の申告期限は、事業年度終了日(=決算日)から2か月以内となっています。
ただし、株式会社の場合は株主総会を開催するのが決算から3か月以内、と定款で定めている場合も多く、その場合には申告期限を延長することができます。
決算の作業というのは意外に面倒なものです。バタバタとしているうちに2か月はあっというま、ということもよくあります。
これも出しておいた方が良い申請書の一つです。
税務署への申請は、事業年度終了日までです。詳しい手続と用紙はこちらにあります。
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_12.htm

自治体については、お住まいの都道府県、および市町村でお調べください。
「神奈川県 法人 申告期限延長」といったキーワードで検索し、目的の自治体のwebサイトで調べましょう。用紙もそこで手に入ると思います。

利回りとは

ギリシアの財政危機が取りざたされています。2011年11月3日の報道によれば、ギリシアの10年物国債の利回りは28%を超えたということです。

通常、国債は発行するときに利率が決まっています。半年に1回とか、年に1回、決められた利息が支払われることになっています。
予め決まっているはずの利息が突然28%に上昇してしまったのでしょうか。それとも、これから発行する国債の利息が28%ということなのでしょうか。

実はこういう利息と利回りは違います。
一般に、元本に対して支払われる利息は、「表面利率」と呼ばれています。何かに連動して利息が上下する債券でない限り、通常は「表面利率」が変わることはありません。

これに対して、「利回り」とは、その債券を満期まで持ち続けたと仮定した時の、もうけの合計を%で表したものです。
国債のような債券は、時に額面に対して低い価格、すなわち割引価格で発行されることがあります。
たとえば、95円で発行された国債を買い、1年後に100円で償還されたとすると、(100-95)÷95=5.2%儲かったことになります。
このとき、この国債は利回りが5.2%である、といいます。

国債のような債券は、発行してから満期まで持ち続けるだけでなく、売買することもあります。
日本の国債は、少し格付けが下がったとはいえ、まだまだ安全な国債とされています。
一方、ギリシアの国債は、そのデフォルト(債務不履行)懸念から価格がどんどん下がっています。

たとえば、国債のデフォルト確率が20%あるとしましょう。
持ち続けてデフォルトにならなければ、100円で償還されますが、万一デフォルトになると償還されない=返ってくるのは0円、ということになります。
そうすると、この国債の理論的な価値は、100x(1-20%)+0x20%=80円、ということになります。

こうして手に入れた80円の国債が、1年後に無事100円で償還されれば、(100-80)÷80=25%となります。
そこで、この国債の利回りは25%になった、というわけです。

利回りが上昇、というと、儲かる可能性が高い、良いことのように見えます。
しかし、その背景には、価格が下がっている=デフォルト確率が上がっている、というマイナス面があります。
利回りが高い=ハイリターンだが、デフォルトする確率も高い=ハイリスクである、という投機的な状況になっていると言えるでしょう。

さて、このように債券価格が下がっていくとき、それでも価格が決まっているということは、それを買う人がいるということです。
一体、どんな人が買うのでしょうか。
デイトレーダーのような個人もいますが、多くはヘッジファンドであったり、もしくは債券価格が下がることを前提に空売りしていた投資家が買ったりしています。
このような混乱に乗じて投機をして儲けるなんて、と眉をひそめる向きもあるかもしれません。
しかし、こういう時に投機目的で買う人がいなくなると、デフォルト懸念のある債券は、価格が底なしに暴落してしまいます。
何かと批判されることも多いファンドですが、反対に暴落を買い支えているともいえるのです。

バッチサイズと合成の誤謬

週末になりますと、自宅にはたくさんのDMが送られてきます。
また、アンケートメールやDMメールもたくさん送られてきます。

自動車や不動産、家具などは、ぜひ週末に足を運んでほしい、という意図があるのでしょう。
その他のDMやアンケートは、比較的時間の多い休日に、ぜひ目を通してほしい、アンケートに回答してほしい、ということなのだと思います。
この考え方は、もちろん正しいと思います。

しかし、読む方にとっては、さすがに時間に限りがあります。
誰でも1日24時間しかありませんし、DMを読むだけで24時間を費やすわけにもいきません。
したがって、おのずと、読まれるDMの数は絞り込まれます。
また、休日は趣味や家族サービスなど、別の用事に時間を費やす方も多いでしょう。
そうすると、読まれないまま捨てられるDMも相当の数に上ります。

送る側は、比較的時間に余裕のある(と思われる)週末に合わせてDMを送っているつもりです。
しかし、皆がそのように同じ行動をとると、読み手にはたくさんのDMが届くことになってしまい、そのほとんどが読まれないという矛盾が起きます。
一つ一つの行動は合理的な目的があったとしても、皆が同じ行動をとると、全体としては違った結果を導き出してしまうことを「合成の誤謬」といいます。

このような状況で、より注目してもらうには、他社と少し違った行動をとることです。
他社が一斉に週末に向けてDMを送る一方で、自社は別の曜日にDMを送るわけです。
そうすると、他社のDMが来ない間に、もしかしたらゆっくり読んでもらえる時間ができるかもしれません。

TOC理論というものがあります。
連続しているモデルの中で、何か制約条件=ボトルネックが生じている場合に、そのボトルネックを解消してアウトプットを最大化しよう、というものです。
ボトルネック解消の方法は幾つかありますが、その一つにバッチサイズを小さくする=ボトルネックの処理能力が低くても柔軟に対応可能になる、という方法があります。

今回の場合、DMの読み手の時間は限られている、ということがボトルネックになっています。
その結果、せっかくのDMが読まれずに捨てられてしまうわけです。
一度にDMが大量に届くことは、読み手にとってはバッチサイズの大きい処理が流れてきたことを意味します。
「バッチサイズを小さくする=DMが集中しない他の曜日に送る」ことも必要かもしれません。

「減損」とは

前社長の解任問題でオリンパスが連日話題になっています。
当初は単なる社内コミュニケーションによるものとされていましたが、過去に行われたM&Aの買収価格の問題も浮上し、議論が噴出しているようです。
このM&A案件では、買収してまもなく、リーマンショックによって「のれん」について減損を適用することになったと説明されています。
前回は、その「のれん」について解説しましたが、一方、この「減損」とは何でしょうか。

時を同じく、パナソニックもTV事業で「減損」を行い、1千億円を超える損失を計上すると発表しています。

「減損」とは、文字通り、持っている資産を「減じる」ことによって生じる「損失」のことです。

工場の建物や機械などの資産は、購入した後にその使用期間に合わせて減価償却を行っていきます。
事業が順調な時は、この減価償却をまかなって十分な利益が出ているはずです。
しかし、事業が不調になると、事業の赤字が続き、将来もどうにもなりそうもない、という状況もあり得ます。

このとき、工場の建物や機械などの資産は、引き続き減価償却を行っていくわけですが、この先減価償却を続けても利益がでないとすると、そもそも資産としての価値がないのではないか、という話が出てきます。

現代のように経営環境がめまぐるしく変わる中では、そういう資産を長く置いておいても価値が上がることはあまりありません。
機械などはそのまま持っていても陳腐化していきます。
事業を中止し、別の事業に転換するとしても、工場を取り壊したり、機械を廃棄したりせざるを得ないでしょう。
工場や機械を転売、あるいは事業そのものを他社に転売することもありえますが、赤字事業ですから、やはり売却に際して損失は避けられないでしょう。

このように、事業の将来の見込みが立たなくなった時に、価値を生み出さなくなった資産を現実的な価値にまで落とすことを「減損」といいます。
(実際には、事業の見込み以外にも、土地のような資産そのものの時価が下がったり、物理的に資産がダメになってしまった場合も含まれます)

先のパナソニックの例では、激しい価格競争が続くTV事業から得られる儲けで、TV事業の資産の価値を将来も回収することができない、という評価になったものと考えられます。

減損は、工場の建物や機械などの実体のある資産(「有形固定資産」といいます)のほかにも、先に説明した「のれん」も対象にします。
前に多額の資金を投じて買収した事業から生じた「のれん」も、もしその事業から得られる儲けが低くなってしまったら、「のれん」の価値も低くなる、というわけです。

先のオリンパスの例では、買収はしたものの、そこから得られる儲けが当初の見込みよりだいぶ低くなってしまい、多額の「のれん」を回収できなくなってしまったのでしょう。

減損の会計は比較的新しい考え方です。日本では、多くの会社で平成17年4月から適用開始となりました。
それまでは、経営者は決算について、事業が黒字、赤字、ということだけ考えていればよかったかもしれません。
減損の会計導入後は、事業が赤字に陥ると、たちまち持っている資産そのものまで減損が必要となるケースも出てきて、赤字が増幅する傾向にあります。

常に儲け続けなければならない、いわば全力疾走を常に続けている経営環境にあるといえるでしょう。

「のれん」とは

前社長の解任問題でオリンパスが連日話題になっています。
前社長の解任は社内のコミュニケーションが問題とされたようですが、一方で前社長は過去に同社が行ったM&Aの価格が高すぎたことを問題視しているようです。
2011年10月20日付の日本経済新聞の報道によると、M&Aの買収価格が高すぎて、「のれん」について、「減損」を適用することになったことが書かれています。
さて、M&Aについて必ず出てくる言葉が「のれん」です。
「のれん」というと、飲食店の入り口に掛かっている、いわゆる「暖簾」を思い浮かべますが、M&Aに出てくる「のれん」とは一体なんでしょうか。

会社を買収しようとするとき、様々な方法で買収価格を決めます。
その価格の決め方は、理論的には色々な算定方法があります。
しかし、最終的には売り手と買い手の交渉ごとですから、最後は両者が折り合える金額で買収が成立することになります。

一方、その買収した会社は決算を行い、買収時点での財務諸表というものがあるはずです。
貸借対照表は、その時点での会社の財政状態を表します。
したがって、資産から負債を引いた純資産が、その時点での会社の財務諸表上の価値、ということになります。

ところが、この純資産で買収価格が決まる、ということはほとんどありません。
たいていは会社の資産価値を時価で再評価したり、その会社の事業の将来性を評価したりするので、買収価格は純資産よりも高くなります。

買収した会社は、親会社の財務諸表と一緒に連結することになるのですが、連結するときにこの再評価作業を行います。
しかし、資産や負債を再評価した後でも、どうしても差額が残ります。これを「のれん」といいます。
上に述べたように、その差額の主な内容は、事業の将来性を評価したりして出てくる金額です。その会社の事業の価値そのものといってもよいでしょう。
お店の「暖簾」がその店の価値そのものであるように、このような買収差額、つまり資産などを再評価しても残る事業の価値を「のれん」と呼ぶわけです。

図を見てみましょう。

買収時点での純資産が50となっている会社を買収価格80で買収したとします。
資産や負債を再評価した結果、純資産は20増えたとしましょう。
それでも、買収価格80-再評価20-純資産50=10が残ってしまいます。これが「のれん」というわけです。

ところで、純資産よりも低い価格で買収することもあります。そうすると「のれん」はマイナスになります。これを「負ののれん」といいます。
赤字が続いて誰も買い手がつかなくなってしまった会社に目をつけて、安く買って、親会社のノウハウを上手く移転しながら会社の持っている潜在価値を引き出す。
そういう時に「負ののれん」が発生することがあります。

次回「減損とは」に続く

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