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資本コストとは(その2)-高い資本コストを要求する投資家とは誰なのか

前回は、資本コストの意味するところについて解説いたしました。
2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムでは、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。

会社四季報によれば、3月決算の上場会社の売上高営業利益率は、3.2%ということです(平成11年度3月期全産業合計)。

会社の存在理由は利益ばかりにあるわけではない、とか、現在の経済環境下では売上高営業利益率3.2%は、まだ頑張っている方だ、という意見があるでしょう。

筆者も事業会社で事業管理を務めましたので、その苦労は実感できます。

ただ、自社の目線だけでなく、常に違う目線で見てみることも必要です。

もし自分が投資家だったら。

大事な資金をどこに投じるか?

営業利益率が10%を超える会社が世界には多数ある中、営業利益率が数%以下の会社に投じるでしょうか。

投資家というものは、この点については冷徹な目を持っています。

そういう視点でみると、残念ながら今の日本企業の多くは魅力が薄いと言わざるを得ないのです。

特に円高の現在では、海外の投資家からは日本企業は割高に見えます。

「投資家」というとハゲタカファンドやヘッジファンドのようなものをイメージしがちです。
しかし、そうしたハゲタカファンドは市場のごく一部で、資金の出所の50%以上は機関投資家、すなわち回り巡って私たちの年金や、生命保険、投資信託などです。
(東京証券取引所平成22年度株式分布状況調査、投資部門別株式保有状況より)

したがって、投資家の目線というものは、結局は私たちの財産を守る、増やす、という目線そのものなのです。

「高い資本コストを要求する」
それは、海外のプレッシャーとか、一部のファンドの要求だけではなく、取りも直さず私たち自身の要求ということになるでしょう。

私たちの大事な財産のために、日本企業はもっと頑張らなければならない、ということになります。

ところで、利益を増やす、というとすぐに、コストカット、リストラ、という言葉が出てきます。
そうした手段ももちろん必要な局面もありますが、利益追求のために、ひたすらコストカットやリストラを続けなければならない、という議論に筆者は与しません。
この議論はまた次回以降に述べたいと思います。

資本コストとは(その1)

2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムに興味深い記事がありました。
記事では、米ヒューレット・パッカード社がパソコン事業の分離を検討したことと、日本企業の売上高営業利益率の低さについて述べています。
同部門の売上高営業利益率は5%どまりであると言われているのに対し、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。

資本コストとは

ものの本を読みますと、「資本コスト」とは、「資本を調達するコスト」と書かれています。
資本は他人資本、すなわち借入金や社債などの債務、と自己資本、すなわち株式に分けられます。
借入金や社債であれば、利息が調達コストであることは容易に理解できるでしょう。
いっぽう、株式のような自己資本は、一般には「返さなくてよいお金」と考えられ、これに調達コストがあるとは理解しにくい面があります。

自己資本の資本コストとは

自己資本の資本コスト(資本調達コスト)とは何でしょうか。
それは配当金です。株主であれば、投資=株式に対して、リターンを求めるのは当然で、そのリターンとは配当金、ということになります。
会社は、十分な利益もないのに配当をすることは法律で禁じられているので、配当をするには、裏付けとなる利益が十分に上がっていなければならない、ということになります。

将来株価が上がれば、株主は売却益を手にすることができるのだから、配当がなくても株価が上がっていればよい、という見方をすることもできます。
ただし、根拠もなく株価が上がるわけではありません。この先大きく業績が伸びる、という期待があるから株価が上がるわけで、やっぱり十分な利益を上げることが必要になります。

自己資本の資本コストは借入より高い?

次に、自己資本の方が借入よりも調達コストが高い、と言われるのはなぜでしょうか。
トヨタ自動車は平成23年6月17日の株主総会で、年間の配当金を50円とすることを決議しました。
トヨタ自動車単体の平成23年3月末の一株当たり株主資本(=自己資本)は、2,081円です。したがって、自己資本の資本コストは、50円÷2,081円=2.4%ということになります。

配当は、会社の利益を原資にするわけですから、会社は配当して十分なだけの利益を上げていなければなりません。
配当する前には税金も払わなければなりませんから、50円の配当をしようとすれば、83円の利益を上げなければなりません。
50÷(100%-40%)=83円、日本の税率は、法人税、住民税、事業税など全て含めて約40%と言われています。これを実効税率といいます。
83円÷2,081円=3.9%となりますので、借入と比べると高い率になっていることが分かります。
つまり、2,081円の資本を株主から預かって、83円以上の利益を上げなければ、50円の配当をすることができない、ということです。

資本コストとは(その2)に続く

日本経済の再生とは(その1)

久しぶりに六本木ヒルズに行きました。
昔、その端のビルに勤めていたことがあり、懐かしく思い出しました。
当時ランチで行きつけだったところに行ってみたところ、残念ながら閉店になっていました。
他にも幾つか空き店舗になったところを見かけました。
家の近所でも少しずつですがシャッターが閉まっていくのが気になっています。
折しも、先週号の日経ビジネス(2011.9.19号)の特集の一つは「事業断絶列島を救え」でした。

これが日本経済のすべてを代表するとは思いませんし、他には成長しつつある分野もあると思いますが、今、日本経済の中で様々なものが急速に劣化、崩壊しつつあるのを危惧しています。

大きな構造物が崩壊するとき、たとえ最初は小さくても、一部の崩壊によって周りがそれを支えきれなくなって続いて崩壊し、さらにそれを支えきれなくなった周囲が次々崩壊する、連鎖反応が起こります。
今日見てきた店舗の閉鎖は、これと同じようなことが起きているような気がしてなりません。
事業縮小によってオフィスが撤退すると、昼間人口が減り、需要が減って飲食店やその他の商業施設が撤退せざるを得なくなります。すると、その事業を営む企業が事業縮小に追い込まれ、さらに需要減退を招く、という構図です。

これを悲観主義的に捉えるのではなく、何とか食い止めて反転につなげる方策をこれから考えていきたいと思います。

日本経済の再生とは(その2)に続く

中小企業の経営-ドラマ「下町ロケット」

WOWOWで放映されたドラマ「下町ロケット」第1回を観ました。
大田区の中小企業、つくだ製作所。高い精密加工技術を売りにしているが、主力製品の技術を大手企業のナカシマ精機から特許侵害で訴えられる。
係争の対象となった製品の供給に不安を覚えた大口得意先からのキャンセル、メインバンクの融資打ち切りで、つくだ製作所は窮地に立たされる。
というストーリーです(第1回まで)。

訴訟に売り上げ減、融資打ち切りと、よくも立て続けに問題が発生するものだとも思いますが、普通、問題は立て続けに発生するものなのです。
当然のことながらビジネスはあらゆる要素が相互連関しており、一つに問題が発生すると連鎖反応が起きるからでしょう。
中小企業の経営に携わったことのある筆者にも経験があります。

ドラマ中では、技術一辺倒で多額の開発費を支出してきた社長への不満も噴出します。
経理部長も開発費の上昇に苦言を呈しますが、「モノづくりの火を絶やさない」と社長は主張します。

長年経理財務に携わってきた筆者が言うのは少し変かもしれませんが、この社長の言葉には大いに賛同します。

多くの中小企業の足元は決して安定していません。
現在も6重苦などと言われますが、海外とのコスト競争に打ち勝つには、確かにコスト削減と、今すぐ日の目を見ない開発費支出を抑制するのは正論と言えるでしょう。

一方、それだけではやはり激しい競争に勝てないのも事実です。
コストダウンだけで他に売り物がない場合には、早晩行き詰まります。自社より高いコスト競争力の企業が世界のどこかに現れたら、すぐに乗り換えられてしまうからです。
いかにコストダウンに努めても、最後はコストを0にはできませんから、必ずどこかに限界があります。

したがって、決して盤石とはいえない中小企業の経営を支えるのは、実は目先のコスト削減ではなくて、高い技術力こそが本当の競争の源泉と言えるでしょう。
そうした技術力を売り物に変える部分こそが苦しいのもまた事実ですが、それを乗り越えることが正に真の競争力の獲得と言えるでしょう。

どのように難局に立ち向かっていくか、ドラマの次回以降が楽しみです。

外資系経理の生活(その8)-ボーナス

外資系経理の生活(その7)-年間見通しから続く

前回では、外資系企業のボーナスの特徴について述べました。

しかし、日本の商習慣上、外資系といえどもやはり日本の会社と同じような賞与体系にしないといけない人事戦略上の事情もあるようです。
したがって、外資系の多くは、年俸制といいながらも、その年俸を16分割し、毎月の給与は1/16を支給し、夏冬はボーナスと称してそれぞれ2/16を支給しているケースも多いようです。
もしくは15分割し、夏2か月冬1か月というケースもあるでしょう。
いずれにせよ、夏冬のボーナスは、年俸制の一部として支給されているケースが多いということです。
これとは別に業績連動型のボーナスがあり、年度の業績に応じて、更に何か月分かが支給されるようになっています。

さて、外資系経理を担当していると、親会社との間で議論が噴出するのが、このボーナスのあり方です。
親会社への報告書では大抵、夏冬の支給分も、業績連動型のボーナスも、両方ともbonusとして報告するケースが多いようです。

親会社としては、業績が良いときに支給するのがボーナス、という考え方に基づいていますので、好業績の時は問題ないのですが、業績がよくないときに、このボーナスに目を付けます。
いわく、業績が悪いときにボーナスを計上するのはどういうことか、と。

会社の社員としては、夏冬のボーナスは単に年俸の分割であって、本当の意味のボーナスは業績連動型の部分だけです。
業績が悪いときに、業績連動型を減らされるのは納得がいきますが、夏冬ボーナスまで減らされるのは減給となり納得がいきません。

筆者が勤めてきた幾つかの外資系企業では、必ずと言っていいほどこの問題が出ました。
「夏冬のボーナスは給与の一部」と説明して、一時は納得してもらっても、しばらく時間が経ったり、担当が変わったりするとまた議論の蒸し返しとなります。

会計報告上も夏冬のボーナスについては、「季節給与」といった名目とし、業績連動型部分のみを「ボーナス」として報告しておいた方が無難かもしれません。

外資系経理の生活(その9)勘定科目体系の最近の動向に続く

外資系経理の生活(その7)-年間見通し

外資系経理の生活(その6)-外資系企業の監査役監査から続く

多くの外資系では第2四半期を終え、2011年も折り返しとなりました。
外資系企業では、予算に加えて、ForecastまたはEstimateと呼ばれる年間見通しを毎月提出するところが多いです。
日本企業の多くは、一度決めた予算は変えずに年度末までそのまま向かうところが多いようです。

この見通しの作成に当たっては、予算に比べて業績が良くなっているか、もしくは悪くなっているか、予算に比べて何か変化した事項はないか、を織り込んでいきます。
日本企業では、業績が順調で予算達成の見通しが立っていれば、とりあえず一安心、というところがあります。
外資系では、予算を上回る好業績を達成していると、見通しではそれを織り込むことを要求されます。
たとえば、上半期で予算を10%上回っているが、後半は息切れするので、年度見通しとしては予算通り、というプランは、一見すると予算達成に見えますが、本社では受け入れてもらえません。
上半期が予算比+10%ならば、下半期は、同様に、あるいはそれ以上に成長できるだろう、ということです。

反対に下方修正という場合は、それが合理的な理由で、やむを得ないことであれば受け入れられますが、その理由については入念にチェックされます。
理由が納得されない場合には、逆にハッパをかけられてしまいます。

ところで、このように現実を見据えながら、いわば予算の改定ともいえる年間見通しを作成するわけですが、予算は忘れ去られてしまったのかというと、そうではありません。
予算は、年初に本社との間で交わされた達成すべき目標であり、いわば約束です。
予算を超える業績が上がれば、ご褒美=ボーナスが与えられます。
反対に、予算を下回れば、ボーナスは連動して下がります。0にまで下がってしまうこともあります。
あまりに業績がひどいときには、解雇の可能性もあります。
ボーナスとは文字通り「賞を与える」ものであり、信賞必罰が徹底しているといえるでしょう。

外資系経理の生活(その8)-ボーナスに続く

サンクコスト(埋没費用)とは(その2)

サンクコスト(埋没費用)とは(その1) 」では反響を頂きましてありがとうございました。

今回はその続編です。

サンクコスト(埋没費用)を考慮に入れた意思決定を阻む要因の一つが、「利益」、特に年度などの期間で区切った「期間利益」です。

企業の業績は、年度や四半期といった、一定の期間で区切って測ることになっています。企業が持続して運営されていることが前提である以上、どこかの期間で区切らないと、企業が成長しているかどうかが分かりません。
期間を区切るという考え方は、どこでどのように区切るか、というだけのことで、長い目で何かが変わるわけではないのですが、それが意思決定をゆがめてしまうことがあります。

一つ例を見てみましょう。
いま稼働している設備があって、新しい設備にした方がキャッシュフローをより多く生み出すことができる、という案件があったとします。
今の設備A:今の設備の帳簿上の価値(簿価) 2百万円。
新しい設備B:設備代金3百万円、ただし、Aに比べて毎年1百万円キャッシュフローが増える。
ただし、設備Bを導入すると、Aは廃棄しなければならないとしましょう。

この例では、Bの設備に今取り換えれば、3年で元が取れる計算になります(税金などの影響は除く)。
したがって、Bに取り換えた方が良さそうですが、今Aを廃棄すると、廃棄損2百万円が発生します。
ですから、今年はBのメリット1百万円を早速得られたとしても、たぶん赤字になるでしょう(1-2=-1百万円)。

年度の利益が赤字になるというのは、経営者としてはなるべく避けたいところです。
したがって、Bに取り換えるのは止めて、Aをしばらく使い続けよう、という決定を下す経営者も多いのではないでしょうか。

実は、この設備Aの帳簿上の価値2百万円は、既に支出してしまっている費用なので、サンクコストです。
Aを使い続けようと、Aを捨ててBを新たに導入しようと、追加で支出を伴う費用ではありません。

しかし、このような過去に支出した費用が亡霊のように帳簿に残っていて、期間利益に赤字を及ぼすのです。
これが、サンクコストが意思決定をゆがめてしまう一つの例です。

思い切って赤字覚悟でも将来のキャッシュフローを伸ばそう、という心境になれない、そんな背景を説明できるでしょう。

サンクコスト(埋没費用)とは(その1)

日経新聞の連載に「やさしい経済学」というシリーズがあり、元金融担当大臣の竹中平蔵慶応大学教授が執筆しています。

2011年7月13日の記事では、後藤新平に寄せ、関東大震災を機に、過去の慣行にとらわれない、東京のグランドデザインが描かれたことが紹介されています。
社会に一度定着した制度や慣行を一度に崩すことはなかなか困難ですが、関東大震災によって、ゼロから作り直すことが可能になったことを、「サンクコストがゼロになった」という表現で紹介しています。

サンクコスト(埋没費用)は、経済学や経営学で意思決定を行う際によく出てくる言葉です。

ビジネスの現場に限らず、生活をしていると、幾つかの選択肢があって、どれを選んだら最も得になるか、という意思決定を迫られる場面があります。

このとき、どの選択肢を採ったとしても、どれが得かという判断に関係しないコストのことを「サンクコスト」と呼びます。
「埋没費用」という言葉は、サンク=sinkの過去分詞形のsunkを直訳していますが、もしかするとこの訳語が言葉の意味を分かりにくくしているかもしれません。

一つの例を挙げましょう。
居酒屋にやってきて、500円払ってビールを1杯注文しました。
そのビールを飲んでしまってから、実はビール飲み放題メニュー1,200円があることに気づきました。
あまりお酒が強くないのですが、あと2杯くらいは飲めそうな気がします。ただ、既に1杯飲んでいるので、あと3杯飲めるかどうかはちょっと分かりません。
このまま、(1) ビールを単品で頼み続けた方がいいか、(2)飲み放題にした方がいいか、思案のしどころです。
すると、飲み代の計算は次のようになります。

仮にビールをあと2杯飲んだ時点で、十分酔っぱらって飲めなくなってしまう場合
(1)単品で2杯飲むと、2杯x500円=1,000円
(2)飲み放題メニュー 1,200円
したがって、単品で2杯飲んだ方が200円オトク。

仮にビールをあと3杯は飲めそうな場合
(1)単品で3杯飲むと、3杯x500円=1,500円
(2)飲み放題メニュー 1,200円
したがって、飲み放題にした方が300円オトク。

このとき、最初に飲んだ1杯目のビールは、どちらが得かという計算には入っていないことがわかります。
1杯目のビールの分を取り消して、最初から飲み放題だったことにしてくれるなら別ですが、きっとそうはいかないでしょう。
したがって、既に飲んでしまった1杯目のビールは、この先どういう選択をするかには関係がありません。
つまり、これがサンクコストです。

しかし、これを実感として理解することはなかなか難しいです。
なぜなら、人間はどうしても過去にとらわれてしまう生き物だからです。

仮にあと2杯で帰ろう、と思っていても、
「最初から飲み放題にしておけば良かったなあ。あとビールを2杯飲むと全部で3杯だから1,500円。飲み放題に比べて300円損したなあ。」
などと考えたりしませんか?

冷静に考えると、あと2杯で帰るなら単品で頼んだ方が得なのですが、過去にとらわれてしまうこともよくあるのです。

何か効率の良いインフラなり設備なりが登場した時に、既存のものを壊さなければ設置できないことはよくあることです。
繁栄を謳歌し、現在も特に問題のないインフラや設備を壊してしまう、というのは普通は「もったいない」と考えます。
竹中教授の記事では、関東大震災によって否応なしにインフラがなくなってしまったので、そういう憂いをすることなく、新しく、より効率の良いインフラを設置する機会が生まれた、いわばピンチがチャンスに変わったことを説明しています。
とはいえ、過去にお金をかけて築き上げたものを捨てて、新しいものに取り換えるのは、それが得と分かっていてもなかなか難しいことがあります。
損得がなかなか思うようにならないのは、この当たりの発想が関係しているようです。
サンクコスト(埋没費用)とは(その2)に続く

コメ先物の試験上場-先物取引の本質とは

コメ先物が東京穀物商品取引所と関西商品取引所に試験上場されることが決まったということで、日経新聞でも7月7日付朝刊より特集記事が組まれています。

世界で最初に先物取引を始めたのは江戸時代の日本で、コメの価格をヘッジするためだったと言われています。したがって、今回商品取引所に試験上場されるというのは、ある意味で温故知新と言えるでしょう。

さて、先物取引というと、「濡れ手に粟のぼろもうけ」とか「大損をして全財産を失った」と言われる投機性の強い投資の印象があります。

■先物取引の目的
先物取引の実際の目的は、相場変動があって将来の価格が予想しづらいものについて、その価格を今の時点で確定してしまうことにあります。

たとえば、日本で自動車を製造しアメリカに輸出している自動車会社が、9月に1台1万ドルの車を1000台(すなわち1千万ドル)輸出する計画を立てていても、為替相場がいったい幾らになるのかが分からないようでは予算の立てようもありません。
そこで、今の為替相場を勘案して、例えば「今年度の9月に1千万ドルを80円で売る」という契約を銀行と結びます。そうすれば、確実に8億円を手にすることができるわけです。
もちろん、その時に円安となり、1ドル90円になっていれば9億円を手にできたはずなので、損をすることになります。他方、1ドル70円になってしまうと、何も契約がなければ7億円に目減りしてしまう損を回避したことになります。

為替相場が幾らになるかは予想できないので、将来の変動(これを「リスク」といいます)を今固定化してしまう(これを「ヘッジ」といいます)のが先物取引です。

■先物取引と先渡取引
ただし、もっと専門的にいうと、上記の自動車のように、自分の取引に基づいて将来の取引額を銀行とヘッジする方法は特に「先渡取引」と呼んで「先物取引」と区別しています。

先渡取引と特に区別して呼ぶ先物取引は、銀行との相対ではなく、A.取引所で取引されることと、B.差金決済によること、とされています。

■先物取引の例
たとえば上記の自動車の例でいうと、銀行と相対で取引をする代わりに、取引所を使って先物をやり取りすることもできます。

自動車会社は、この1千万ドルを9月に、80円で売ると取引所で約束します。これが先物契約で、A.に述べたように、取引所で取引されることがポイントです。
9月に、為替相場が1ドル75円になったとしましょう。自動車会社は1.の1千万ドルを75円で売ります。得意先からは7億5千万円を受け取ったことになります。
次に、先物契約を約束通り実行します。1千万ドルを1ドル80円で取引所で売る約束になっているわけですが、このとき取引所からは、
(先物相場80円-実際の相場75円)×1千万ドル=5千万円だけを受け取ります。このように、先物相場と実際の相場の差額だけでやり取りすることを、B.に述べた「差金決済」と言います。
得意先から受け取った7億5千万円と、取引所から差金決済で受け取った5千万円を合わせて、自動車会社は上記の先渡契約と同様、8億円を手にすることになります。

反対に、9月に、為替相場が1ドル85円になったとしましょう。自動車会社は1千万ドルを85円で売ります。得意先から8億5千万円を受け取ったことになります。
次に、先物契約を約束通り実行しなければなりません。1千万ドルを1ドル80円で取引所で売る約束になっているわけですが、このとき取引所からは、
(先物相場80円-実際の相場85円)×1千万ドル=5千万円を払えと言ってきます。
得意先からは8億5千万円受け取っていますが、取引所に5千万円差金決済しなければならないので、自動車会社が手にするお金は結局8億円になります。

日本企業のROE、前年比改善

7月3日日経新聞朝刊で、上場企業のROEが2011年3月期に平均6.0%となり、前年同期より2.1%改善したとの報道がありました。
それでもなお、米欧の主要企業のROEは平均10%を上回るそうです。

日本企業のROEの低さは、よく話題に取り上げられます。
筆者は、日本企業の特徴から、次の2つの点を原因として見ています。

一つは法人税の高さです。
日本の法人税の実効税率は約40%です。他方、米国はほぼ同水準と言われるものの、欧州のそれは約30%前後と言われています。
したがって、日経新聞の報道の例で、税引き前の水準で考えると、
日本のROE=6.0%÷(1-40%)=10%
欧州のROE=10%÷(1-30%)=14%
となり、依然として欧州に差があるものの、その差は縮まります。
たとえば、もし欧州並みにROEを得ようと思うと、税引き前では10%÷(1-40%)=16.7%も確保しなければなりませんから、なかなか大変なことだと思います。
日本の税負担の高さについては、財界からも法人税の負担軽減の提言がたびたびなされますが、このようにROEで考えると、その負担の高さはやはり目立ちます。

もう一つは、数値的には検証をしていないため筆者の推測の域を出ませんが、日本企業の価格設定にあると思われます。
多くの欧米企業、特にブランドイメージの高い企業は、高いマージン率(粗利率)を得ているといわれています。
ルイ・ヴィトンのような高級ブランド品、メルセデスのような高級車などは、筆者は実際の粗利率を知りませんが、相当の粗利率と考えてよいでしょう。

一方、ソニー、パナソニック、トヨタなどは世界的にも知らない人のないほどのブランドですが、それほどの高い粗利率を得ているとは思えません。
したがって、こうした粗利率の差が、最終的なROEの差につながっていると言えそうです。

もちろん、日本企業の付加価値戦略が誤っているわけではありません。日本企業の製品は昔から安価で高品質と言われますが、欧米企業に比較して低いであろう粗利率は、安価である点にあるだろうと思います。
すなわち、日本企業の付加価値戦略においては、付加価値はROEを通じて資本家に渡るのではなく、安価を通じて顧客に渡っていると考えられます。
資本家から見れば、当然に得るべき付加価値を搾取されている印象がありますが、安価を通じて顧客に渡ることで、長期的なロイヤリティ=企業の持続的成長を得ているとも考えられるのです。

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