財務
利回りとは
Tweetギリシアの財政危機が取りざたされています。2011年11月3日の報道によれば、ギリシアの10年物国債の利回りは28%を超えたということです。
通常、国債は発行するときに利率が決まっています。半年に1回とか、年に1回、決められた利息が支払われることになっています。
予め決まっているはずの利息が突然28%に上昇してしまったのでしょうか。それとも、これから発行する国債の利息が28%ということなのでしょうか。
実はこういう利息と利回りは違います。
一般に、元本に対して支払われる利息は、「表面利率」と呼ばれています。何かに連動して利息が上下する債券でない限り、通常は「表面利率」が変わることはありません。
これに対して、「利回り」とは、その債券を満期まで持ち続けたと仮定した時の、もうけの合計を%で表したものです。
国債のような債券は、時に額面に対して低い価格、すなわち割引価格で発行されることがあります。
たとえば、95円で発行された国債を買い、1年後に100円で償還されたとすると、(100-95)÷95=5.2%儲かったことになります。
このとき、この国債は利回りが5.2%である、といいます。
国債のような債券は、発行してから満期まで持ち続けるだけでなく、売買することもあります。
日本の国債は、少し格付けが下がったとはいえ、まだまだ安全な国債とされています。
一方、ギリシアの国債は、そのデフォルト(債務不履行)懸念から価格がどんどん下がっています。
たとえば、国債のデフォルト確率が20%あるとしましょう。
持ち続けてデフォルトにならなければ、100円で償還されますが、万一デフォルトになると償還されない=返ってくるのは0円、ということになります。
そうすると、この国債の理論的な価値は、100x(1-20%)+0x20%=80円、ということになります。
こうして手に入れた80円の国債が、1年後に無事100円で償還されれば、(100-80)÷80=25%となります。
そこで、この国債の利回りは25%になった、というわけです。
利回りが上昇、というと、儲かる可能性が高い、良いことのように見えます。
しかし、その背景には、価格が下がっている=デフォルト確率が上がっている、というマイナス面があります。
利回りが高い=ハイリターンだが、デフォルトする確率も高い=ハイリスクである、という投機的な状況になっていると言えるでしょう。
さて、このように債券価格が下がっていくとき、それでも価格が決まっているということは、それを買う人がいるということです。
一体、どんな人が買うのでしょうか。
デイトレーダーのような個人もいますが、多くはヘッジファンドであったり、もしくは債券価格が下がることを前提に空売りしていた投資家が買ったりしています。
このような混乱に乗じて投機をして儲けるなんて、と眉をひそめる向きもあるかもしれません。
しかし、こういう時に投機目的で買う人がいなくなると、デフォルト懸念のある債券は、価格が底なしに暴落してしまいます。
何かと批判されることも多いファンドですが、反対に暴落を買い支えているともいえるのです。
資本コストとは(その2)-高い資本コストを要求する投資家とは誰なのか
Tweet前回は、資本コストの意味するところについて解説いたしました。
2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムでは、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。
会社四季報によれば、3月決算の上場会社の売上高営業利益率は、3.2%ということです(平成11年度3月期全産業合計)。
会社の存在理由は利益ばかりにあるわけではない、とか、現在の経済環境下では売上高営業利益率3.2%は、まだ頑張っている方だ、という意見があるでしょう。
筆者も事業会社で事業管理を務めましたので、その苦労は実感できます。
ただ、自社の目線だけでなく、常に違う目線で見てみることも必要です。
もし自分が投資家だったら。
大事な資金をどこに投じるか?
営業利益率が10%を超える会社が世界には多数ある中、営業利益率が数%以下の会社に投じるでしょうか。
投資家というものは、この点については冷徹な目を持っています。
そういう視点でみると、残念ながら今の日本企業の多くは魅力が薄いと言わざるを得ないのです。
特に円高の現在では、海外の投資家からは日本企業は割高に見えます。
「投資家」というとハゲタカファンドやヘッジファンドのようなものをイメージしがちです。
しかし、そうしたハゲタカファンドは市場のごく一部で、資金の出所の50%以上は機関投資家、すなわち回り巡って私たちの年金や、生命保険、投資信託などです。
(東京証券取引所平成22年度株式分布状況調査、投資部門別株式保有状況より)
したがって、投資家の目線というものは、結局は私たちの財産を守る、増やす、という目線そのものなのです。
「高い資本コストを要求する」
それは、海外のプレッシャーとか、一部のファンドの要求だけではなく、取りも直さず私たち自身の要求ということになるでしょう。
私たちの大事な財産のために、日本企業はもっと頑張らなければならない、ということになります。
ところで、利益を増やす、というとすぐに、コストカット、リストラ、という言葉が出てきます。
そうした手段ももちろん必要な局面もありますが、利益追求のために、ひたすらコストカットやリストラを続けなければならない、という議論に筆者は与しません。
この議論はまた次回以降に述べたいと思います。
資本コストとは(その1)
Tweet2011年10月6日付日本経済新聞の「大機小機」というコラムに興味深い記事がありました。
記事では、米ヒューレット・パッカード社がパソコン事業の分離を検討したことと、日本企業の売上高営業利益率の低さについて述べています。
同部門の売上高営業利益率は5%どまりであると言われているのに対し、日本企業の多くが売上高営業利益率5%にも達していないということで、資本コストを低く見積もりすぎていると述べています。
資本コストとは
ものの本を読みますと、「資本コスト」とは、「資本を調達するコスト」と書かれています。
資本は他人資本、すなわち借入金や社債などの債務、と自己資本、すなわち株式に分けられます。
借入金や社債であれば、利息が調達コストであることは容易に理解できるでしょう。
いっぽう、株式のような自己資本は、一般には「返さなくてよいお金」と考えられ、これに調達コストがあるとは理解しにくい面があります。
自己資本の資本コストとは
自己資本の資本コスト(資本調達コスト)とは何でしょうか。
それは配当金です。株主であれば、投資=株式に対して、リターンを求めるのは当然で、そのリターンとは配当金、ということになります。
会社は、十分な利益もないのに配当をすることは法律で禁じられているので、配当をするには、裏付けとなる利益が十分に上がっていなければならない、ということになります。
将来株価が上がれば、株主は売却益を手にすることができるのだから、配当がなくても株価が上がっていればよい、という見方をすることもできます。
ただし、根拠もなく株価が上がるわけではありません。この先大きく業績が伸びる、という期待があるから株価が上がるわけで、やっぱり十分な利益を上げることが必要になります。
自己資本の資本コストは借入より高い?
次に、自己資本の方が借入よりも調達コストが高い、と言われるのはなぜでしょうか。
トヨタ自動車は平成23年6月17日の株主総会で、年間の配当金を50円とすることを決議しました。
トヨタ自動車単体の平成23年3月末の一株当たり株主資本(=自己資本)は、2,081円です。したがって、自己資本の資本コストは、50円÷2,081円=2.4%ということになります。
配当は、会社の利益を原資にするわけですから、会社は配当して十分なだけの利益を上げていなければなりません。
配当する前には税金も払わなければなりませんから、50円の配当をしようとすれば、83円の利益を上げなければなりません。
50÷(100%-40%)=83円、日本の税率は、法人税、住民税、事業税など全て含めて約40%と言われています。これを実効税率といいます。
83円÷2,081円=3.9%となりますので、借入と比べると高い率になっていることが分かります。
つまり、2,081円の資本を株主から預かって、83円以上の利益を上げなければ、50円の配当をすることができない、ということです。
資本コストとは(その2)に続く
外資系経理の生活(その8)-ボーナス
Tweet前回では、外資系企業のボーナスの特徴について述べました。
しかし、日本の商習慣上、外資系といえどもやはり日本の会社と同じような賞与体系にしないといけない人事戦略上の事情もあるようです。
したがって、外資系の多くは、年俸制といいながらも、その年俸を16分割し、毎月の給与は1/16を支給し、夏冬はボーナスと称してそれぞれ2/16を支給しているケースも多いようです。
もしくは15分割し、夏2か月冬1か月というケースもあるでしょう。
いずれにせよ、夏冬のボーナスは、年俸制の一部として支給されているケースが多いということです。
これとは別に業績連動型のボーナスがあり、年度の業績に応じて、更に何か月分かが支給されるようになっています。
さて、外資系経理を担当していると、親会社との間で議論が噴出するのが、このボーナスのあり方です。
親会社への報告書では大抵、夏冬の支給分も、業績連動型のボーナスも、両方ともbonusとして報告するケースが多いようです。
親会社としては、業績が良いときに支給するのがボーナス、という考え方に基づいていますので、好業績の時は問題ないのですが、業績がよくないときに、このボーナスに目を付けます。
いわく、業績が悪いときにボーナスを計上するのはどういうことか、と。
会社の社員としては、夏冬のボーナスは単に年俸の分割であって、本当の意味のボーナスは業績連動型の部分だけです。
業績が悪いときに、業績連動型を減らされるのは納得がいきますが、夏冬ボーナスまで減らされるのは減給となり納得がいきません。
筆者が勤めてきた幾つかの外資系企業では、必ずと言っていいほどこの問題が出ました。
「夏冬のボーナスは給与の一部」と説明して、一時は納得してもらっても、しばらく時間が経ったり、担当が変わったりするとまた議論の蒸し返しとなります。
会計報告上も夏冬のボーナスについては、「季節給与」といった名目とし、業績連動型部分のみを「ボーナス」として報告しておいた方が無難かもしれません。
外資系経理の生活(その7)-年間見通し
Tweet多くの外資系では第2四半期を終え、2011年も折り返しとなりました。
外資系企業では、予算に加えて、ForecastまたはEstimateと呼ばれる年間見通しを毎月提出するところが多いです。
日本企業の多くは、一度決めた予算は変えずに年度末までそのまま向かうところが多いようです。
この見通しの作成に当たっては、予算に比べて業績が良くなっているか、もしくは悪くなっているか、予算に比べて何か変化した事項はないか、を織り込んでいきます。
日本企業では、業績が順調で予算達成の見通しが立っていれば、とりあえず一安心、というところがあります。
外資系では、予算を上回る好業績を達成していると、見通しではそれを織り込むことを要求されます。
たとえば、上半期で予算を10%上回っているが、後半は息切れするので、年度見通しとしては予算通り、というプランは、一見すると予算達成に見えますが、本社では受け入れてもらえません。
上半期が予算比+10%ならば、下半期は、同様に、あるいはそれ以上に成長できるだろう、ということです。
反対に下方修正という場合は、それが合理的な理由で、やむを得ないことであれば受け入れられますが、その理由については入念にチェックされます。
理由が納得されない場合には、逆にハッパをかけられてしまいます。
ところで、このように現実を見据えながら、いわば予算の改定ともいえる年間見通しを作成するわけですが、予算は忘れ去られてしまったのかというと、そうではありません。
予算は、年初に本社との間で交わされた達成すべき目標であり、いわば約束です。
予算を超える業績が上がれば、ご褒美=ボーナスが与えられます。
反対に、予算を下回れば、ボーナスは連動して下がります。0にまで下がってしまうこともあります。
あまりに業績がひどいときには、解雇の可能性もあります。
ボーナスとは文字通り「賞を与える」ものであり、信賞必罰が徹底しているといえるでしょう。
サンクコスト(埋没費用)とは(その2)
Tweet「サンクコスト(埋没費用)とは(その1) 」では反響を頂きましてありがとうございました。
今回はその続編です。
サンクコスト(埋没費用)を考慮に入れた意思決定を阻む要因の一つが、「利益」、特に年度などの期間で区切った「期間利益」です。
企業の業績は、年度や四半期といった、一定の期間で区切って測ることになっています。企業が持続して運営されていることが前提である以上、どこかの期間で区切らないと、企業が成長しているかどうかが分かりません。
期間を区切るという考え方は、どこでどのように区切るか、というだけのことで、長い目で何かが変わるわけではないのですが、それが意思決定をゆがめてしまうことがあります。
一つ例を見てみましょう。
いま稼働している設備があって、新しい設備にした方がキャッシュフローをより多く生み出すことができる、という案件があったとします。
今の設備A:今の設備の帳簿上の価値(簿価) 2百万円。
新しい設備B:設備代金3百万円、ただし、Aに比べて毎年1百万円キャッシュフローが増える。
ただし、設備Bを導入すると、Aは廃棄しなければならないとしましょう。
この例では、Bの設備に今取り換えれば、3年で元が取れる計算になります(税金などの影響は除く)。
したがって、Bに取り換えた方が良さそうですが、今Aを廃棄すると、廃棄損2百万円が発生します。
ですから、今年はBのメリット1百万円を早速得られたとしても、たぶん赤字になるでしょう(1-2=-1百万円)。
年度の利益が赤字になるというのは、経営者としてはなるべく避けたいところです。
したがって、Bに取り換えるのは止めて、Aをしばらく使い続けよう、という決定を下す経営者も多いのではないでしょうか。
実は、この設備Aの帳簿上の価値2百万円は、既に支出してしまっている費用なので、サンクコストです。
Aを使い続けようと、Aを捨ててBを新たに導入しようと、追加で支出を伴う費用ではありません。
しかし、このような過去に支出した費用が亡霊のように帳簿に残っていて、期間利益に赤字を及ぼすのです。
これが、サンクコストが意思決定をゆがめてしまう一つの例です。
思い切って赤字覚悟でも将来のキャッシュフローを伸ばそう、という心境になれない、そんな背景を説明できるでしょう。
サンクコスト(埋没費用)とは(その1)
Tweet日経新聞の連載に「やさしい経済学」というシリーズがあり、元金融担当大臣の竹中平蔵慶応大学教授が執筆しています。
2011年7月13日の記事では、後藤新平に寄せ、関東大震災を機に、過去の慣行にとらわれない、東京のグランドデザインが描かれたことが紹介されています。
社会に一度定着した制度や慣行を一度に崩すことはなかなか困難ですが、関東大震災によって、ゼロから作り直すことが可能になったことを、「サンクコストがゼロになった」という表現で紹介しています。
サンクコスト(埋没費用)は、経済学や経営学で意思決定を行う際によく出てくる言葉です。
ビジネスの現場に限らず、生活をしていると、幾つかの選択肢があって、どれを選んだら最も得になるか、という意思決定を迫られる場面があります。
このとき、どの選択肢を採ったとしても、どれが得かという判断に関係しないコストのことを「サンクコスト」と呼びます。
「埋没費用」という言葉は、サンク=sinkの過去分詞形のsunkを直訳していますが、もしかするとこの訳語が言葉の意味を分かりにくくしているかもしれません。
一つの例を挙げましょう。
居酒屋にやってきて、500円払ってビールを1杯注文しました。
そのビールを飲んでしまってから、実はビール飲み放題メニュー1,200円があることに気づきました。
あまりお酒が強くないのですが、あと2杯くらいは飲めそうな気がします。ただ、既に1杯飲んでいるので、あと3杯飲めるかどうかはちょっと分かりません。
このまま、(1) ビールを単品で頼み続けた方がいいか、(2)飲み放題にした方がいいか、思案のしどころです。
すると、飲み代の計算は次のようになります。
仮にビールをあと2杯飲んだ時点で、十分酔っぱらって飲めなくなってしまう場合
(1)単品で2杯飲むと、2杯x500円=1,000円
(2)飲み放題メニュー 1,200円
したがって、単品で2杯飲んだ方が200円オトク。
仮にビールをあと3杯は飲めそうな場合
(1)単品で3杯飲むと、3杯x500円=1,500円
(2)飲み放題メニュー 1,200円
したがって、飲み放題にした方が300円オトク。
このとき、最初に飲んだ1杯目のビールは、どちらが得かという計算には入っていないことがわかります。
1杯目のビールの分を取り消して、最初から飲み放題だったことにしてくれるなら別ですが、きっとそうはいかないでしょう。
したがって、既に飲んでしまった1杯目のビールは、この先どういう選択をするかには関係がありません。
つまり、これがサンクコストです。
しかし、これを実感として理解することはなかなか難しいです。
なぜなら、人間はどうしても過去にとらわれてしまう生き物だからです。
仮にあと2杯で帰ろう、と思っていても、
「最初から飲み放題にしておけば良かったなあ。あとビールを2杯飲むと全部で3杯だから1,500円。飲み放題に比べて300円損したなあ。」
などと考えたりしませんか?
冷静に考えると、あと2杯で帰るなら単品で頼んだ方が得なのですが、過去にとらわれてしまうこともよくあるのです。
何か効率の良いインフラなり設備なりが登場した時に、既存のものを壊さなければ設置できないことはよくあることです。
繁栄を謳歌し、現在も特に問題のないインフラや設備を壊してしまう、というのは普通は「もったいない」と考えます。
竹中教授の記事では、関東大震災によって否応なしにインフラがなくなってしまったので、そういう憂いをすることなく、新しく、より効率の良いインフラを設置する機会が生まれた、いわばピンチがチャンスに変わったことを説明しています。
とはいえ、過去にお金をかけて築き上げたものを捨てて、新しいものに取り換えるのは、それが得と分かっていてもなかなか難しいことがあります。
損得がなかなか思うようにならないのは、この当たりの発想が関係しているようです。
サンクコスト(埋没費用)とは(その2)に続く
コメ先物の試験上場-先物取引の本質とは
Tweetコメ先物が東京穀物商品取引所と関西商品取引所に試験上場されることが決まったということで、日経新聞でも7月7日付朝刊より特集記事が組まれています。
世界で最初に先物取引を始めたのは江戸時代の日本で、コメの価格をヘッジするためだったと言われています。したがって、今回商品取引所に試験上場されるというのは、ある意味で温故知新と言えるでしょう。
さて、先物取引というと、「濡れ手に粟のぼろもうけ」とか「大損をして全財産を失った」と言われる投機性の強い投資の印象があります。
■先物取引の目的
先物取引の実際の目的は、相場変動があって将来の価格が予想しづらいものについて、その価格を今の時点で確定してしまうことにあります。
たとえば、日本で自動車を製造しアメリカに輸出している自動車会社が、9月に1台1万ドルの車を1000台(すなわち1千万ドル)輸出する計画を立てていても、為替相場がいったい幾らになるのかが分からないようでは予算の立てようもありません。
そこで、今の為替相場を勘案して、例えば「今年度の9月に1千万ドルを80円で売る」という契約を銀行と結びます。そうすれば、確実に8億円を手にすることができるわけです。
もちろん、その時に円安となり、1ドル90円になっていれば9億円を手にできたはずなので、損をすることになります。他方、1ドル70円になってしまうと、何も契約がなければ7億円に目減りしてしまう損を回避したことになります。
為替相場が幾らになるかは予想できないので、将来の変動(これを「リスク」といいます)を今固定化してしまう(これを「ヘッジ」といいます)のが先物取引です。
■先物取引と先渡取引
ただし、もっと専門的にいうと、上記の自動車のように、自分の取引に基づいて将来の取引額を銀行とヘッジする方法は特に「先渡取引」と呼んで「先物取引」と区別しています。
先渡取引と特に区別して呼ぶ先物取引は、銀行との相対ではなく、A.取引所で取引されることと、B.差金決済によること、とされています。
■先物取引の例
たとえば上記の自動車の例でいうと、銀行と相対で取引をする代わりに、取引所を使って先物をやり取りすることもできます。
自動車会社は、この1千万ドルを9月に、80円で売ると取引所で約束します。これが先物契約で、A.に述べたように、取引所で取引されることがポイントです。
9月に、為替相場が1ドル75円になったとしましょう。自動車会社は1.の1千万ドルを75円で売ります。得意先からは7億5千万円を受け取ったことになります。
次に、先物契約を約束通り実行します。1千万ドルを1ドル80円で取引所で売る約束になっているわけですが、このとき取引所からは、
(先物相場80円-実際の相場75円)×1千万ドル=5千万円だけを受け取ります。このように、先物相場と実際の相場の差額だけでやり取りすることを、B.に述べた「差金決済」と言います。
得意先から受け取った7億5千万円と、取引所から差金決済で受け取った5千万円を合わせて、自動車会社は上記の先渡契約と同様、8億円を手にすることになります。
反対に、9月に、為替相場が1ドル85円になったとしましょう。自動車会社は1千万ドルを85円で売ります。得意先から8億5千万円を受け取ったことになります。
次に、先物契約を約束通り実行しなければなりません。1千万ドルを1ドル80円で取引所で売る約束になっているわけですが、このとき取引所からは、
(先物相場80円-実際の相場85円)×1千万ドル=5千万円を払えと言ってきます。
得意先からは8億5千万円受け取っていますが、取引所に5千万円差金決済しなければならないので、自動車会社が手にするお金は結局8億円になります。
日本企業のROE、前年比改善
Tweet7月3日日経新聞朝刊で、上場企業のROEが2011年3月期に平均6.0%となり、前年同期より2.1%改善したとの報道がありました。
それでもなお、米欧の主要企業のROEは平均10%を上回るそうです。
日本企業のROEの低さは、よく話題に取り上げられます。
筆者は、日本企業の特徴から、次の2つの点を原因として見ています。
一つは法人税の高さです。
日本の法人税の実効税率は約40%です。他方、米国はほぼ同水準と言われるものの、欧州のそれは約30%前後と言われています。
したがって、日経新聞の報道の例で、税引き前の水準で考えると、
日本のROE=6.0%÷(1-40%)=10%
欧州のROE=10%÷(1-30%)=14%
となり、依然として欧州に差があるものの、その差は縮まります。
たとえば、もし欧州並みにROEを得ようと思うと、税引き前では10%÷(1-40%)=16.7%も確保しなければなりませんから、なかなか大変なことだと思います。
日本の税負担の高さについては、財界からも法人税の負担軽減の提言がたびたびなされますが、このようにROEで考えると、その負担の高さはやはり目立ちます。
もう一つは、数値的には検証をしていないため筆者の推測の域を出ませんが、日本企業の価格設定にあると思われます。
多くの欧米企業、特にブランドイメージの高い企業は、高いマージン率(粗利率)を得ているといわれています。
ルイ・ヴィトンのような高級ブランド品、メルセデスのような高級車などは、筆者は実際の粗利率を知りませんが、相当の粗利率と考えてよいでしょう。
一方、ソニー、パナソニック、トヨタなどは世界的にも知らない人のないほどのブランドですが、それほどの高い粗利率を得ているとは思えません。
したがって、こうした粗利率の差が、最終的なROEの差につながっていると言えそうです。
もちろん、日本企業の付加価値戦略が誤っているわけではありません。日本企業の製品は昔から安価で高品質と言われますが、欧米企業に比較して低いであろう粗利率は、安価である点にあるだろうと思います。
すなわち、日本企業の付加価値戦略においては、付加価値はROEを通じて資本家に渡るのではなく、安価を通じて顧客に渡っていると考えられます。
資本家から見れば、当然に得るべき付加価値を搾取されている印象がありますが、安価を通じて顧客に渡ることで、長期的なロイヤリティ=企業の持続的成長を得ているとも考えられるのです。
リコー、HOYAからペンタックスのデジカメ事業を買収
TweetリコーはHOYAからペンタックスのデジカメ事業を買収すると発表しました。
筆者は長年、ペンタックスの防水デジタルカメラを愛用しており、この発表を興味深く読みました。
詳細は明らかになっていないようですが、記者会見でのトップの発言や公表された資料から、色々と興味深い財務内容が伺えます。
■デジカメ事業の売却によって、HOYA首脳は「特別損失を出す予定はない」と発言しています。事業売却に伴う特別損益は、経営判断によって計上する/しないは選択できませんので、「特別損失は出す予定はない」というよりは、「特別損失は出ない」という意味なのでしょう。
もっとも、HOYAはこの3月期からIFRSに移行しており、IFRSでは特別損失の計上が認められないので、そのことを発言しているのかもしれません。
■HOYAは実は4年前の2007年8月にペンタックスを買収しています。その時の発表資料によれば、買付資金の総額は944億円でした。
一方、HOYAが開示した発表資料によれば、分割する事業の資産は212億円、負債は105億円といいますから、差引して純資産は107億円ということになります。
日経新聞の7月1日付夕刊の記事では、今回のリコーによる買収額は100億円と推定しています。この純資産から推定したのかもしれませんが、前述で(日本基準を前提にして)特別損失が発生しないとすると、買収額はもう少し大きいかもしれません。
■リコーの社長は「3年で1000億円を超える事業に育てたい」と発言しています。このことから、現在のリコーのデジカメ事業は、ペンタックスを合わせたとしても、1000億円には達していないと分かります。
旧ペンタックスの資料によりますと、平成19年3月期の連結純資産は431億円もありました。
また当時のセグメント情報によると、イメージング事業全体では売上が811億円、営業利益は31億円、減価償却は21億円となっており、単純に営業利益に減価償却を足して、営業キャッシュフローを簡便的に計算すれば52億円、ということになります。
■HOYAにおいて、デジカメ事業を含む旧ペンタックス事業の概要を知りたかったのですが、セグメント情報は他の事業と一体になっており、旧ペンタックス事業の収益性は分かりませんでした。しかし、HOYAの財務ハイライトによると、2010年3月期はペンタックス事業の売上は1000億円近くはあったことになります。
2年前のイメージング事業811億円から成長しているのでしょう。
ペンタックス(HOYA)のデジカメ出荷台数は、日経新聞の記事によれば163万台。カカクコムによると、多くの製品は小売価格が1万円前後ですので、カカクコムのような最安値取引価格を考慮したとしても、卸売価格の平均もせいぜい1万円未満といったところでしょう。1台の出荷高を仮に1万円とすればデジカメの売上は163億円と推定されます。多くても2-300億円程度なのではないでしょうか。
他方、リコーの出荷台数は50万台。同様に小売価格を見積もれば、売上高は50億円から100億円といったところだと思います。リコーの買収後の売上高は、ペンタックスを合わせて4-500億円程度でしょうか。
そうすると、「イメージング事業」と呼ばれる中には、デジカメ事業以外に他の事業が半分以上を占めていることがわかります。
今回、売却する事業は「デジタルカメラ・交換レンズ、デジタルカメラアクセサリー、セキュリティカメラ関連製品および双眼鏡など光機製品の開発・製造・販売事業」と書かれていましたので、売却するデジカメ関連の事業以外に、ペンタックスから引き継いで、HOYAに残す事業があるように見えます。
以上から、次のようなことが分かります。
■ペンタックスはカメラのブランドとして知られているが、HOYAがペンタックスを買収した時、既にその事業の中心はカメラと同等かそれ以上のイメージング事業があった。
■HOYAはそのイメージング事業の高い収益性に着目してペンタックスを4年前に買収、純資産431億に対して、およそ倍の944億円を投じた。
■今回、デジカメ関連事業を相当の高額(日経の推定では100億円)で売却したが、イメージング事業の大きさから推定すると、HOYAに残すイメージング事業もあるようだ。
■リコーは、自社のラインナップにペンタックスブランドを加えて、デジカメ事業を強化したい。今の売上水準(推定)を少なくとも倍増させたい。
したがって、今回の意思決定では、旧ペンタックス事業の中からHOYAのシナジーに近い、イメージング事業の”おいしい部分”を残した一方で、リコーについても競争の激化するデジカメ事業で、一定のシェア確保をする礎になったと筆者は見ています。
なお、このブログの内容は、発表された資料や発言を一部用いて推定したもので、資料を精査したものではないため、重要情報の見落としや判断誤りの可能性があります。
また、このブログの内容をもって投資売買の勧奨を行うものではなく、また投資意思決定の材料として利用されることを予定していませんのでご注意ください。