財務
特許紛争とリスク分散
Tweet6月15日付日経新聞に、ノキアがアップルと特許料で和解したことが報じられていました。
ノキアは、同社の特許の幾つかをアップルが侵害したとして訴え、反対にアップルも同社の特許をノキアが侵害しているとして互いに訴える特許紛争が起こっていたとのことでした。
特許の詳しい内容は分かりませんが、このような紛争について一つ言えることは、基本的にはゼロサムゲームになっているということです。
時間をかけて紛争を続ければ、あるいはノキアとアップルのいずれかが勝つかもしれません。
負けた方は買った方に侵害した特許料を支払いますが、両者の損得を足し合わせると0ゼロとなります。
もしくは、紛争にかけた時間の分、弁護士費用や様々な調査費用などの裁判費用が両者とも掛かりますので、マイナスサムゲームとも言えます。
特許紛争は複雑な要素が絡みます。
筆者が過去に見た例では、ある特許を巡り争っていたところ、反対に相手からは特許そのものの有効性を疑う無効審判を請求されました。
仮に無効審判が通ってしまうと、そもそも争点となる特許そのものがなくなってしまうことになります。
相手との紛争は引き分けになるものの、他の大多数の競争相手に対して競争優位を失うリスクも出てくるわけです。
今回のアップルとノキアのケースでは和解により、アップルが幾らかの特許料をノキアに支払うことになったということです。
これをノキアの勝利とみるかどうかは裁判上、判断の分かれるところですが、和解によって早期解決を目指したことは、両者にとって時間短縮のメリットがあったといえるでしょう。
ビジネスのうえで、どうしても白黒つけなければならない場面もありますが、紛争の間も事業環境は目まぐるしく変化します。
裁判が終わるころには、その紛争の対象となる技術は使い物にならないくらいの時代遅れになっているかもしれません。
上に述べた例のように、第三者に対して競争優位を失うリスクもあります。
また、別に考慮しなければならないのは、その紛争の間にもし両者が協力したならば得られたであろう逸失利益です。
もし、両者が早期に紛争を解決する一方、互いに技術を共有して協力し合うと、何か革新的な技術が得られ、より大きな事業利益を手にすることができるかもしれません。
それは、ゼロサムゲームではなく、ウィン=ウィンの関係になる、プラスサムゲームとなる可能性もあります。
よほど確実な事件ならともかく、あるいはからめ手で別の訴えを起こされるなど、勝敗のリスクは案外高いと言えるかもしれません。
リスク分散の視点からは、早期に紛争を収め、双方にとってプラスとなる歩み寄りを得た方が、他の競争相手に対しても有利な立場を築けるかもしれないでしょう。
ROA(総資産利益率)とは
Tweet6月9日付日経新聞の朝刊に、J.フロントリテイリング会長の奥田氏がROAの目標について述べておられました。
一般に投資指標としてはROE(資本利益率)が使われますので、「あれ、ROEではないの?」と思われた方も多いかもしれません。
ROEやROA、投資効率を図る指標としてよく用いられますが、経営がどのように動くと、それらの指標がどのように動くのかは、案外知られていないかもしれません。
ROEとROA、二つの定義式は次の通りです。
ROE=当期利益÷株主資本
ROA=当期利益÷総資産
次に、この二つの式を結び付けてみますと、その違いがよく分かります。
下記の2番目の式で、敢えて株主資本を割って掛けているところがミソです。
ROA=当期利益÷総資産
=当期利益÷株主資本×株主資本÷総資産
=ROE×自己資本比率
(自己資本比率=株主資本÷総資産)
さらに、株主資本と総資産の関係は、負債+株主資本=総資産 となります。
さて、ROAを大きくしようと思ったら、ROEを大きくするか、自己資本比率を大きくするか、ということになります。
しかし、どちらかを大きくしようとして、反対にどちらかが小さくなってしまうと、その効果が相殺されてしまうことにもお気づきと思います。
ROEと自己資本比率、両方大きくなるのが理想ですが、少なくとも、どちらかを上げたときに、他方が下がらないようにしなければなりません。
自社株買いを行ってROEを上げる、ということを時々新聞で目にします。上の式を見ると、ROEは上がるのですが、自社株買いの資金を借り入れで賄ったりすると、負債の部分が増え、結果的に自己資本比率が下がってしまいます。
経営を振り返ってみて、収益を生みそうもない資産を売り払えば、そして仮にそのお金で負債を返済すれば、自己資本比率が上がってROAが上がります。
さらには、収益を生まない資産に限らず、低収益に甘んじている資産を売り払い、そのお金でより高収益の資産に投資すると、自己資本比率は変わらないかもしれませんが、ROEは大きくなります。
「もしドラ」で有名なドラッカー博士の「選択と集中」という言葉があります。経営資源を高収益の資産に投資する、という考え方は、ROAに効果が表れてくるわけです。
他にも経営の施策はあるでしょう。どんな施策を打つと、ROAがどう変わるか、を考えてみると、興味深い結果が得られることでしょう。
財務・経理で転職の方、「後任は既に決まっていますか?」
Tweet財務・経理系の方々が多く異動する時期となりました。
既に転職先が決まり、退職届を出そうという方もおられると思います。
そんな方々へお知らせです。
「後任は既に決まっていますか?」
退職1か月前に意思表示をすればよい、というのが多くの会社での就業規則上の決まりだと思います。
しかしながら、ご自身が退職の意思表示をしてから後任の採用を始めても、1か月以内に良い後任が見つからないことも多いでしょう。
他方、期日が来たからと、後任もなく退職してしまいますと、業務がストップしてしまいます。
後任がいなくても、別に残った人達で業務を割り振れば何とかなる、という考え方もあるでしょうが、2つの意味でそのポジションの地位を危うくします。
「後任がなくても何とかなる」と言うのは、「自分が就いていたポジションはそれほど重要でなかった」と自ら貶めるようなものです。
また外資系企業などではヘッドカウント(人員数)を非常にシビアに見ますから、「後任がいなくても何とかなるなら、これから先もずっと不要のポジションである」と人員削減の恰好の理由を提供してしまうことになりかねません。
当事務所では、ご退職が決まった方々の「後任」として、ただちに業務引き継ぎを行い、業務の空白が生じないようにサポートさせていただきます。
現職の方のご退職後は、正式な社員の「後任」が決まるまでの間を責任を持ってお預かりするとともに、後任の方が着任次第、スムーズにバトンを引き継ぎます。
ご退職の意思を固めたものの、後任がなかなか見つかりにくいという方、重要なポジションの部下が突然辞めてしまい、後任が来るまでの間困っている、という方は当事務所まで是非ご連絡ください。
当事務所でサポートさせていただくポジションは次の通りです。
・暫定CFO、ファイナンスディレクター、コントローラー、ファイナンスマネージャーなど
・月次または年次決算業務、経営陣または本国、リージョンオフィスへの報告
・予算策定または見直し、年度末までの見通しの作成
・予実分析と経営陣への報告、監査対応
・日常の経理、財務処理(支払承認も含む)
・その他、経理財務業務全般
勤務形態も、フルタイムから必要な日数のみ参画させていただくパートタイムまで、ニーズに応じて柔軟に対応させていただきます。
業務の概要について詳しくは、こちらをご覧ください。
お問い合わせはお気軽にお問合せフォームからお寄せ下さい。
他人が見ても分かる書類とは(6)-予算や見積の前提
Tweet前回「他人が見ても分かる書類とは(5)-外部リンクの活用」では、表の数字の出所がどこか明記されていないと、どのようにしてその数値が導き出されたのかが分からないという事例をご紹介しました。
今回は、「パソコンのファイルの場合」のうち、
2-4. 予算や見積の表の場合、どういう前提条件のもとにそのような予算や見積が作られたのかが分からない、事例と対策をご紹介したいと思います。
通常の経理業務であれば、証拠に基づいて経理処理を行いますから、その証拠をきちんと残しておけばよいわけですが、予算や見積といった数字を扱う場合には、その前提条件や根拠が分からないと、どうしてその数字に至ったのかが分からなくなります。
筆者の経験では、経理書類であれば伝票に総勘定元帳、仕訳の元となる請求書や領収書などはきちんと整理して綴じこまれ、これらが探しにくいという事例はあまり見たことがありません。
一方、予算や見積に関連する書類については、最終的な予算や見積の書類はあるものの、その計算はどういう前提に基づいて作られたのか、をきちんと説明する補足文書が丁寧に保管されていない例が多いようです。
予算は実際に運用する際に実績と比較され、その比較分析が経営に役立てられます。その際、どのような前提で作られたのかが明らかでないと、実績との比較も難しくなります。
また、見積については、実績の経理処理に使われる場合も少なくありません。引当金の計上、減損会計といった会計処理では、見積の要素が重要となります。その際に、どのような前提で見積がなされたのかが明確でないと、会計処理の妥当性を後で判断することが難しくなります。
これらのためには、前提条件や根拠をきちんと整理して記録し、かつ予算や見積の書類と一緒に保管しておくことが必要です。
また、それらはできる限り詳しく記録しておいた方がよいでしょう。後から見ると、細かい部分で記憶があいまいになっていることも多いからです。
他人が見ても分かる書類とは(5)-外部リンクの活用
Tweet前回「他人が見ても分かる書類とは(4)-ファイルのバージョン管理」では、幾つもの似たようなファイルがたくさんあり、どれが最終版なのか分からなくなる事例をご紹介しました。
今回は、「パソコンのファイルの場合」のうち、
2-3. 表の数字の出所がどこか明記されていないので、どうやってその数字が導き出されたのかが分からない。
事例と対策をご紹介したいと思います。
よくある事例
まずは、よくある事例を見てみましょう。これも案外、心当たりがあるのではないでしょうか。
※クリックすると拡大できます
ある会社の予算案のようです。数字が並んでいるのですが、たとえば、いまセルは人件費の「給与賃金」を選択してあります。
数式バーにはセルの数字「614,200」が表示されています。
しかし、この614,200という数字は、誰がいつ、どのようにして見積もった数字なのかは分かりません。
もちろん、人件費ですから、人事部が作成しているのでしょう。
しかし、他人が見ても分かる書類とは(3)-フォルダ構造で見たとおり、もしフォルダ構造が体系化されていないと、そのファイルがどこにあるかを探すのに一苦労します。
また、首尾よくファイルが見つかったとしても、他人が見ても分かる書類とは(4)-ファイルのバージョン管理で見たとおり、同じようなファイルが幾つもあると、どれが目当てのファイルかを探すにも苦労することになります。
これを回避するには、どの数字がどこから入手されたのか、せめてどこかに記載しておくべきでしょう。
その際、先に見たような苦労をしないためには、入手元の情報、ファイル名やフォルダ名などはできる限り詳しく記録しておくべきでしょう。
外部リンクを使った例
どこから入手した情報であるかを記録する一つの方法として、Excelの外部リンクをご紹介しましょう。
先ほどと同じ表ですが、「給与賃金」のセルには「614,200」という数字がベタ打ちされているのではなく、参照先が入力されているのにお気づきでしょうか。
上の赤い四角で囲っている数式バーには、「=+’¥¥ Server¥ share¥ Budget¥ 2011¥ [2011_HR.xlsx]Sheet1′!B15」と書かれています。
この、「¥ ¥ Server¥ share¥ Budget¥ 2011¥ 」がファイルの保存されているフォルダを、[2011_HR.xlsx]がそのファイル名を、「Sheet1′!B15」がそのシートとセルを示しています。
こうしておけば、いちいちファイルを探しに行かなくても、そこに書かれたファイルを開けば参照先がすぐに分かるわけです。
参照先を開く方法
次に、このテクニックの応用で、もっと簡単に参照先を開く方法をご紹介します。
Excelのメニューから、[オプション(O)]を選択します。Excel 2010の場合は、[ファイル(F)]メニューの中にあります。
その中から[詳細設定]を選び、「セルを直接編集する」のチェックを外してください。
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こうしておくと、リンクのあるセルの場合には、そのセルをダブルクリックするだけでリンクの参照先ファイルが開きます。
相互参照できるように小計を入れる
ようやく見つけた人事のファイルですが、実際、「給与賃金」とはどれを指しているのかが分からないと、結局数字の出所は分からないままです。
下記の図では、表の下に小計行を入れ、PLとの間で相互参照ができるようにしてあります。
※クリックすると拡大できます
「給与賃金」とは、営業本部、管理本部、技術開発部、品質管理部の4つを足したものであることが右側のキーから分かります。
さらに、数式バーを見ますと、「SUMIF」という関数を使って、キーごとに集計していることも分かります。
関数の参照式はよくご覧になって分析してみてください。これを使うと、複数のセルにまたがる集計がしやすくなります。
最新のファイル名のつけ方
最後に、前回の「他人が見ても分かる書類とは(4)-ファイルのバージョン管理」で、なぜ最新のファイルのファイル名を変えず、古い方のファイルの名前に日付を伏すようにしているかを改めてご説明したいと思います。
常に最新のファイルに対して、ファイル名を「2011_HR最新.xlsx」とか変更した日付をつけたりしてファイル名を「2011_HR0520.xlsx」などと変えてしまうと、この外部リンク先が途切れてしまうのです。
最新のファイルはファイル名を変えず、一つ古くなったバージョンからファイル名を変えていく意味はここにあります。
次回「他人が見ても分かる書類とは(6)-予算や見積の前提」では、予算や見積の前提を残すことの必要性についてご説明します。
他人が見ても分かる書類とは(4)-ファイルのバージョン管理
Tweet前回「他人が見ても分かる書類とは(3)-フォルダ構造」では、フォルダ構造に工夫を凝らすことで、ファイルを探しやすくなる方法をご紹介しました。
今回は、「パソコンのファイルの場合」のうち、
2-2. 幾つもの似たようなファイルがたくさんあり、どれが最終版なのか分からない。
事例と対策をご紹介したいと思います。
よくある事例
まずは、よくある事例を見てみましょう。これも案外、心当たりがあるのではないでしょうか。
改訂とか修正という名前のファイルが並んでいますが、どちらが新しいのかよく分かりません。
一つの手がかりは、「更新日時」です。これは「タイムスタンプ」と言われ、ファイルが保存された日時をパソコンが自動的に記録しているものです。
しかし、「最終」というファイルが3月25日に保存されているにもかかわらず、より新しい日付3月28日のファイルもあります。
普通、人はこれが最終と思ってファイルを保存しますが、色々な事情から修正が入ることはあり得ます。
その時に、「修正版」とか「改訂」などという名前を付けると、いつの修正なのかが分からず、あとで混乱することになります。
「最終」とか「確定版」という名前も要注意です。場合によりさらに修正が入る可能性もあり得るからです。
良い例
絶対的な正解というものはありませんが、一つの例として次の図をご覧ください。
筆者は、常に最新版には「最終」とか「修正」という名前を敢えて入れない、普通のファイル名にしていました。
そして、何か修正が発生した時には、次のように対処していました。
(1)まず修正前にそのファイルをコピーする。
(2)コピーしたファイルは、最後に保存した日付をファイル名の末尾につける(上記の例の「0301」のようにする)。
(3)修正したファイルはそのまま元のファイル名「Financial Plan.xls」で上書き保存する。
こうしておくと、「Financial Plan.xls」というファイルは常に最新のファイルなのだと分かります。
最新のファイルの名前に日付をつけていく方法もありますが、Excelのようにファイルのリンクをつけたりする場合には、日付がついているとリンクが壊れたりすることがあるので、筆者は最新のファイルには敢えて日付をつけないやり方を採用していました。
また、古いファイルにも関わらず更新日付が変わってしまう問題については、ファイルを常に「読み取り専用」形式で保存することで解決していました。
更新日付が変わってしまうのは、誰かが参考のためにファイルを開いたにもかかわらず、ついうっかり上書き保存してしまうために発生します。上書き保存されないよう、「読み取り専用」にしておくわけです。
次回は「他人が見ても分かる書類とは(5)-外部リンクの活用」で、表の数字の出所を明らかにして、どうやってその数字が導き出されたを分かるようにしておく方法をご紹介します。
他人が見ても分かる書類とは(3)-フォルダ構造
Tweet前回「他人が見ても分かる書類とは(2)-ありがちな紙の書類」では、紙の資料に一工夫凝らすことで、分かりやすい書類として管理できることをご紹介しました。
今回は、「パソコンのファイルの場合」のうち、
2-1. フォルダが階層的、体系的に作られていないため、どの年次の資料がどこに保管されているかが分からない
事例と対策をご紹介したいと思います。
まずは、よく見かける事例を見てみましょう。案外、心当たりがあるのではないでしょうか。
(1)sato、suzukiなどの個人名のフォルダがある
未来永劫その方が居続けて、同じ仕事をずっとするなら構わないでしょう。しかし、退職や転勤によってその方が居なくなることも十分にあり得ます。個人名のフォルダにしておくと、仕事がどうしても属人的となり、整理がつかなくなります。
(2)2009、2010など半角と全角のフォルダが混在している。
コンピュータは半角と全角を区別します。統一的にファイルを処理するためには、半角と全角はどちらかにきっちりと統一すべきでしょう。後に述べるつもりでいますが、ファイルのリンクを作成する際にも半角と全角が混在するとエラーの元になります。
(3)一番上の階層に「2006」というフォルダがあるが、「suzuki」の下にも「2006」がある。
「2006」は2006年のことだと思われますが、どちらのフォルダにどんなファイルが入っているのか、非常に分かりにくくなります。
(4)「決算」の他に「決算関係」のフォルダがある。
どちらが本当の決算なのか分かりにくくなります。どちらかに統一すべきでしょう。
(5)年度は「期」で表示すべきなのか、「西暦」で表示すべきなのか
「決算sato」の下に、「固定資産14期」というフォルダがあります。日本企業の慣習として、年度で表す以外に「第xx期」という事業年度の表し方があります。
どちらを一般的に用いているかは会社の事情によりますが、せめて「第xx期」か西暦か、あるいは「平成23年」といった年号なのか、どれかに統一すべきでしょう。
(6)月を英語で表している
外資系企業に多い特徴ですが、「Mar 2010」「Apr 2010」のように、月を英語で表したフォルダ名を良く見かけます。
コンピュータはアルファベット順に処理しますので、このように月を英語で表すと、一番最初に4月(April)が来て、次に8月(August)が来ると言う奇妙な並びになります。
201001、201002、などのような名前のつけ方にすれば、月の順番にフォルダが並んで見やすくなります。
改善例
絶対的な正解というものはありませんが、一つの例として次の図をご覧ください。
上記で述べたような問題を解決して、だいぶ見やすくなったのではないでしょうか。
ただし、このようなすっきりとした階層構造を維持するのはなかなか大変です。社内、部内などで統一したルールを作るとともに、誰もが勝手に安易な名前でフォルダを作らないよう、フォルダの管理者をキチンと決めておくことも一案でしょう。
他人が見ても分かる書類とは(2)-ありがちな紙の書類
Tweet前回「他人が見ても分かる書類とは(1)」では、残された資料が十分でない事例を取り上げました。
筆者は昔、監査法人に勤めていましたが、監査法人では様々な工夫を凝らしていて、書類(「監査調書」と言います)を作成する際には、上司や先輩からも随分と厳しく言われました。
監査法人では、クライアントごとにチームが随時編成され、1-2週間程度の作業を行った後は、また次のクライアントに別のチームとメンバーで出向く仕組みになっています。
この場合、次回も自分が同じ仕事を担当するかどうかは不明であり、あるいはそのクライアントには二度と行かないかもしれないのです。
したがって、監査法人では、自分の作った書類は基本的には自分以外の人間が引き継ぐのが当たり前である、という前提に立っています。
そのため、書類の作り方の細かいところまでルールが統一され、その書類が何の目的でどのように作られたかが一目で分かるようになっています。
監査法人を辞めた後も今でもその経験は役に立っています。
先に挙げた問題を一つずつ見ていきましょう。
1-1. 資料そのものがどこに保管されているか分からない。
これは経理・財務に限らず、会社の全ての文書に言えることですが、文書を部署ごと、年次ごと、項目ごとに分けて体系的に管理しておくことが必要です。
中小規模の会社では、経理・財務がこうした総務的な文書管理の仕事も負うことがあります。
その体系はリスト化してどんな書類があるのかを一覧化しておきましょう。
つづいて、書類の保管場所を決め、その保管場所にも体系的に名前や番号をつけておきます。先のリストには、その保管場所の名前や番号も明記しておきます。
1-2. 書類保管箱の明細のつけ方が不十分で、結局箱を全部出してみなければ何の資料が入っているか分からない。
これは、上記のリストの作り方に問題があるほか、書類のタイトルのつけ方にも問題があります。
「xx関係資料」という名前は一見分かりやすいのですが、時が経ちその件を覚えている人が少なくなるにつれ、何の関係の資料だったかという記憶も失われていきます。
「xx関係」だけでなく、できる限りその下のレベルの、一目でみてわかる内容も副題として付記しておく必要があるでしょう。
少々手間はかかりますが、最初の数ページをスキャンして、そのファイルはサーバーに保管して見られるようにしておくのも一案です。
1-3. 計算表の場合、計算式が不明なので、どの項目とどの項目を足すとその数値になっているのかが分からない。
この図を見てください。
一番下に、「固定費」「変動費」と書いてあるので、固定費と変動費に相当するものをそれぞれ集計しているらしいことは分かるのですが、どれが固定費で、どれが変動費かが書いていないため、見当をつけて電卓を打ってみるしかありません。
こちらの図はいかがでしょうか。
体裁はもっと整えた方がいいと思いますが、何が「固定費」で何が「変動費」なのかが明記されているので、後から見て検証したり理解したりしやすいです。
1-4. パソコンで作られた表らしいが、その元となるファイルがどこにあるのか分からない。
パソコンで作ったファイルは、ファイル名はもちろん、その保管されているフォルダも明記するようにしましょう。
Excelなどは、「ヘッダ」部分に次のような文字を入れておきますと、ファイル名やフォルダ名も印刷されるようになります。
&[パス]&[ファイル名]!&[シート名]
特に、この「パス名」が入っているのといないのとでは、元のファイルがどこにあるかを探す効率が全く違います。
こんなこと当たり前だろう、と思われるのですが、このようなちょっとしたことでも現場では案外行われていないことが多いのです。
筆者の経験でも、「せめて一工夫あったら良かったのに」と思うことも少なからずありました。
次回は、(3)-フォルダ構造で、ファイルがどこに保管されているのか分からない事例をご紹介します。
他人が見ても分かる書類とは(1)
Tweet経理・財務の担当者が異動することが多い季節になってきました。
日本企業の多くは3月決算ですから、3月の決算作業がそろそろ落ち着き始める5月、6月に転職を考える方々は多いようです。
転職するということは、必然的に退職後に誰かが自分の仕事を引き継ぐことを意味します。また同様に、自分が新天地で働くときには、誰か前任者の仕事を引き継ぐわけです。
引継ぎを行う時に自分の後任がいたり、もしくは引き継がれるときに前任がいれば幸いです。
しかし、後任が入社しないまま自分の退職日が来てしまうこともありますし、入社してみたら前任者はいなかった、ということも少なくありません。
前任者がいない場合は、前任者が残した資料を基に、自分で作業をしていくことになります。
一般に、財務や経理の仕事は、一般の会計原則に従い、もしくは税法に従って処理するわけですから、比較的ルーティンワークであり、どこの会社でも仕事の内容は似たようなもの、と考えられがちです。
しかし、お金というのは会社にとって血液そのものです。人によってさまざまな血液型があり、また血管の網目は一人一人違うと言われています。
同様に、お金を扱う経理の仕事も、会社によってそれぞれやり方が違うのです。そこで、入社してみると、それぞれ会社固有のやり方があって戸惑うことも少なくありません。
そして、そのやり方は残念なことに十分な形で資料として残されていない場合が多いのです。
筆者の経験から、次のような場合が多く見受けられます。
1. 紙の資料の場合
1-1. 資料そのものがどこに保管されているか分からない。
1-2. 書類保管箱の明細のつけ方が不十分で(「xx資料一式」などと書かれている)、結局箱を全部出してみなければ何の資料が入っているか分からない。
1-3. 計算表の場合、計算式が不明なので、どの項目とどの項目を足すとその数値になっているのかが分からない。
1-4. パソコンで作られた表らしいが、その元となるファイルがどこにあるのか分からない。
2. パソコンのファイルの場合
2-1. フォルダが階層的、体系的に作られていないため、どの年次の資料がどこに保管されているかが分からない(たとえば、「決算」「決算関係」などと似たようなフォルダが幾つもある)
2-2. 幾つもの似たようなファイルがたくさんあり、どれが最終版なのか分からない(「最終版」と名付けられたファイルよりも後の保存日付のものが存在する)。
2-3. 表の数字の出所がどこか明記されていないので、どうやってその数字が導き出されたのかが分からない。
2-4. 予算や見積の表の場合、どういう前提条件のもとにそのような予算や見積が作られたのかが分からない。
このような状態で後を引き継ぐと、後任の人は相当な苦労をすることになります。
筆者は多くの経験から、上記のような状態でも何とか書類を掘り起こすノウハウがあり、通常よりは資料を読み解いたり、失われた鎖を見つけたりすることに慣れています。
しかし、そのような苦労はしないに越したことはありません。
次回「他人が見ても分かる書類とは(2)-ありがちな紙の書類」では、このような苦労を防ぐための方法についてご説明しています。
もう一つの想定外-誰が費用を負担するのか
Tweet東京電力の福島第一原子力発電所事故については、大津波による被害を「想定外」としていたことで話題になっています。
その是非についてはここでは話題にしませんが、この問題について、もう一つ重要な「想定外」があったと考えられます。
それは、このような事故があった時に、誰が費用を負担するのか、という仕組みが明らかになっていなかったことです。
一義的には運営主体であった東京電力が負うものと考えられていますが、報道にもある通り原子力損害賠償法の定めによる免責の可能性もあります。しかしながら、その免責の条件が明確に定められておらず、解釈をめぐって議論が続いています。
このようなことは、原子力発電所のような大きな案件でなくても、日常的な取引の契約でも十分に起こり得ることですが、一般に日本の契約では、細かい条項を定めず、最後に「本契約に定めのない事項については、甲乙協議の上誠意をもって処理するものとする。」という一文で済ますことが多いようです。
これはすなわち、「想定しえない事項については、事件が起こってから考えましょう」ということです。
誰でも必要以上に費用負担をしたくないものです。したがって、もし想定外の事項が発生した場合、その費用負担を巡って様々な議論が起き、結論がまとまらないまま時間ばかりが過ぎていく、ということが起こりえます。
この費用負担がまとまりませんと、決算を行うに当たって費用の見積もり作業にも影響を及ぼします。
一般にはその費用の可能性が高く金額を合理的に見積もられる場合は引当金を計上することになりますが、費用負担がまとまらないと合理的に見積もることができない、ということになるわけです。
経理担当者としては悩ましいところです。
契約を締結する際には、安易に「想定外」を作らず、多くの点をあらかじめ「想定」しておいた方が、後々の無用な議論を回避することができ、財務上も早い対応が可能となります。
経理担当者はこうした事態にも備える「想定」を日ごろから行っておく必要があるかもしれません。